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「解散風」が吹いた瞬間に始まる地獄。元財政課長が教える、選挙管理委員会が「絶対に間に合わない」と叫ぶ3つの真実

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【この記事で分かること】

  • 選挙準備における「カネ」の動かし方:なぜ通常の予算手続きを無視した「専決処分」や「緊急随契」が多用されるのか、その法的な裏側と現場のひりつくようなスピード感。
  • 物資調達の物理的な限界:普通には買えない「特殊な投票用紙(BP紙)」やポスター掲示板を、全国一斉の争奪戦の中でいかにして確保するのかという、知られざるロジスティクスの苦労。
  • 現場を支える「ヒト」の調整の泥臭さ:地域の重鎮を口説き落とす「立会人」の確保術と、投票から開票まで18時間を超える拘束時間の中でミスが許されない、職員たちの過酷な勤務実態。
  • 公務員スキルの「市場価値」への気づき:わずか2週間で数億円規模のプロジェクトを無事故で完遂させる能力が、実は民間企業でも喉から手が出るほど欲しい「最強のプロジェクトマネジメントスキル」である理由。

テレビの画面に「衆議院解散へ」の速報テロップが流れるとき、世間の関心は「政権交代はあるか」「次の顔は誰か」という政局に向かいます。

しかし、その瞬間、全国の役所の「選挙管理委員会事務局」では、職員たちの顔からスッと血の気が引いています。

別フロアの財政課では、課長が「おい、専決の準備だ」と部下に指示を飛ばし、人事課・総務課では全庁から動員する従事者のリスト作成が始まります。

そう、急な選挙への対応は、行政が行うプロジェクトの中で最も理不尽で、最もプロフェッショナルな案件。

なぜ、あれほど優秀な精鋭が集まっていても、解散のたびに選管は「間に合わない!」と悲鳴を上げるのか。

今回は、その知られざる構造的欠陥と、それでもやり遂げてしまう公務員の異常なまでの底力について、元財政課長の視点で解剖します。

さゆり

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ねこ

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目次

「カネ」の壁:専決処分と緊急随契で走り抜ける超法規的スピード

解散が決まってから投開票日までは、わずか2週間程度しかありません。通常の行政手続きであれば、予算を組んで議会に諮り、議決を得てから契約し、公告を出す……というプロセスに数ヶ月を要します。

しかし、選挙に「待った」は許されません。ここで発動されるのが、

「専決処分」

です。

議会を待っていたら掲示板も作れない。「専決処分」のリアル

選挙には、中核市規模でも数億円単位の巨額な費用が動きます。

地方公共団体の予算には、不測の事態に備え、議会の議決を経ることなく使える「予備費」が計上されていますが、一般に選挙を執行する上で、この予備費で足りると言うことは考えられません。

また、国政選挙の場合、その財源には国庫支出金が充当されるなど、執行ベースでの対応ではなく、予算書ベースでの対応が必要になります。

一方で、解散総選挙において、そんな議決をまっている暇はありません。

そこで、地方自治法第179条に基づく「専決処分」が使われます。「議会を招集する暇がないと認めるとき」という規定を根拠に、首長の判断で予算を確定させてしまうのです。

財政課長時代の私は、選管から上がってきた「概算」の積み上げを、ほぼ数時間で精査し、首長の決裁へと回しました。精査といっても、過去の執行実績との乖離がないかを確認するだけの、文字通りの緊急措置です。

このスピード感は、通常の予算査定ではまずあり得ない「異常事態」です。

「見積もり合わせ」の余裕すらない?緊急随契で業者を即断即決

予算がついた瞬間に、今度は「契約」の壁が立ちはだかります。

通常、公金を使う以上は競争入札や、少なくとも数社からの見積もり合わせが原則です。しかし、選挙ポスター掲示板の設置業者や投票用紙の印刷業者を、公示の3日前に公募している暇はありません。

ここで使われるのが「緊急随契(緊急事態による随意契約)」です。

「この業者なら、今夜からでも掲示板の設営に動いてくれる」 「この印刷所なら、特殊な投票用紙の在庫を確保している」

そんな選管の必死の判断に基づき、特定の業者と即座に契約を締結します。財政課としても、本来なら「もっと安く済むのでは?」と突っ込みたいところですが、そんなことを言っている間に掲示板の設置が1箇所でも遅れれば、選挙そのものの正当性が揺らぎます。

1円を削ることよりも、1分1秒を削ること」が最優先される。

この極限状態のマネジメントが、選挙準備の第一関門なのです。

さゆり

場合によっては、選管職員は命さえ削ってると言われるレベルの仕事になっています…。

「モノ」の壁:ポスター掲示板と投票用紙、物理的限界との戦い

カネの算段がついたとしても、次に立ちはだかるのは物理的な限界です。デジタル化が進む現代にあっても、選挙というシステムは驚くほど大量の実物に依存しています。

そして、それらの多くは、明日までに1,000個用意してくれと言って手に入るものではありません。

ねこ

選挙運動はデジタル・ネットに対応してるけど、それ以外の選挙全般を通して見ると、まだまだアナログなところも多いのにゃ…

全国で一斉に足りなくなるポスター掲示板の奪い合い

選挙準備の中で、最も目に見えて無理ゲーなのがポスター掲示板の設置です。

自治体の規模にもよりますが、街中のあちこちに数千カ所単位で設置されるあの掲示板。急な解散が決まると、全国の自治体が提携業者に一斉に発注をかけます。

しかし、掲示板の資材となる木枠やパネル、そしてそれを組み立てて設置する職人の数には物理的な限りがあります。

さらに、設置場所の確保も至難の業です。公有地だけでは足りず、民有地をお借りしているケースも多いのですが、急な選挙では、今回は貸せない、あるいは、そこは今工事中だ、といったトラブルが続出します。これらを数日間ですべて調整し、公示日の朝には1箇所の漏れもなく立て終えていなければならないのです。

さゆり

特に人口の多い都市部ではこれが大きな問題になるようですね…

普通は買えない「あの紙」投票用紙の供給網パンク

もう一つの大きな壁が、投票用紙です。

選挙で使われるあの独特の感触の紙は、普通の紙ではありません。BP紙(合成紙)と呼ばれる、折っても勝手に開く特殊な素材です。これがなければ、自動開票機でスムーズに集計することができず、選挙事務が破綻します。

この特殊な紙を作っているメーカーは限られており、急な選挙が決まると全国から注文が殺到します。選管職員にとって、この紙の確保はまさに命がけです。

万が一、発注ミスで紙が足りなくなれば、投票所を閉鎖せざるを得ません。それはすなわち、民主主義の根幹を止めてしまうことを意味します。そのため、選管の担当者は、解散の噂が出た段階からメーカーの在庫状況を非公式に探り、裏で確保の根回しに走ります。

「在庫がありません」という言葉で、絶望のどん底に落とされる…。これもまた、選挙という巨大なロジスティクスの裏側にあるリアルです。

「ヒト」の壁:地域の「立会人」と、疲弊する「職員従事者」

カネとモノが揃っても、最後に現場を動かすのは「ヒト」です。しかし、このヒトの確保こそが、選管職員にとって最も胃が痛くなる調整かもしれません。

立会人の確保という高いハードル。地域の重鎮にお願いして回る選管の調整力

選挙において、投票所や開票所には「選挙立会人」の存在が不可欠です。

不正がないかを監視する役割ですが、これらは一般の有権者から選ばれます。実態としては、地域の自治会長さんや、信頼の厚い重鎮の方々にお願いすることになります。

急な選挙が決まると、選管職員は電話を握りしめ、あるいは直接足を運んで、「今回もどうかお願いします」と頭を下げて回ります。相手にも当然予定があります。法事がある、あるいはもう体力が持たない、と断られることも珍しくありません。

しかし、立会人が欠ければ、その投票所を開くことはできません。地域の人間関係を熟知し、粘り強く交渉する選管の調整力は、もはや行政事務の枠を超えた特殊技能と言えます。

さゆり

地域の自治会長さんたちも高齢化が著しいので、真冬の立会人従事はホントに大変なんですよね…。

投票から開票まで18時間超。職員を絶望させる「超・長時間労働」のリアル

一方で、実務を担う職員たちの負担も限界を超えています。

選挙当日、投票所の担当職員は早朝6時には現地に集合します。そこから投票が終わる20時まで、14時間近くも緊張感の中に置かれます。

しかし、本当の勝負はそこからです。投票箱を抱えて開票所へ向かい、深夜まで続く開票作業が始まります。すべてが終わって片付けをし、帰路につく頃には深夜2時、3時を回っていることもざらです。

18時間を超える拘束時間の中で、一票の数え間違いも、名簿のチェックミスも許されない。このプレッシャーと肉体的疲労が重なることで、現場の空気は極限まで張り詰めます。

もちろん、これらの労働に対しては、その対価として超過勤務手当等の手当が支給されます。

しかし、急に振ってくる長時間労働の負担は、お金で解決できる限界を超えています。選挙を終えた後の職員たちのくたびれた顔を見るたびに、それを痛感していました。

ねこ

あまり語られないけど、実はこれのせいで翌日の業務に支障が出ている役所も多いのにゃ。


なぜ選挙は「公務員のプロフェッショナリズム」の極致なのか

ここまで読んできて、公務員の仕事がいかに理不尽で、かつ過酷なものであるかを再確認された方も多いかもしれません。しかし、一人の元公務員として、私はあえてこう言いたいのです。

この選挙という修羅場を乗り越えられるあなたは、間違いなく超一流のプロフェッショナルである

と。

わずか2週間で数億円規模のプロジェクトを「無事故」で完遂する異常な能力

ビジネスの世界で、2週間という極めて短い期間に、数億円の予算を動かし、数千人のスタッフを配置し、数万人の顧客(有権者)を対象としたイベントを、たった一つのミスもなく完遂できるプロジェクトがどれほどあるでしょうか。

選挙事務において、ミスは許されません。一票の計算違いも、受付での案内ミスも、すべてがニュースになり、民主主義への信頼を揺るがす大問題になります。

その極限のプレッシャーの中で、淡々と、かつ確実にタスクを消化していく公務員のプロジェクトマネジメント能力は、実は異常なほど高いレベル

にあります。

これは、マニュアルがあるからできるのではありません。予期せぬトラブルにその場で対応し、カネ・モノ・ヒトを最適に動かし続ける、現場職員一人ひとりの判断力の賜物なのです。

この不条理な修羅場を回せるあなたは、外の世界でも間違いなく超一流のプロジェクトマネージャーである

役所の中にいると、こうした選挙対応を「公務員なら当たり前の仕事」と思ってしまいがちです。しかし、一度役所の外へ目を向けてみてください。

これだけの規模と複雑さ、そして責任の重さを伴うプロジェクトを、大きな事故なく完遂できる人材は、民間企業にとっても喉から手が出るほど欲しい「超一流のプロジェクトマネージャー(PM)」に他なりません。

もし、今のあなたが選挙準備で疲弊し、自分に自信を失いかけているとしたら、それは大きな間違いです。この不条理な案件を回しきったという事実は、あなたの市場価値がいかに高いかを証明する、何よりのキャリア実績になるのです。

さゆり

こういう修羅場をくぐっている職員は、ハイクラス転職市場で十分な価値を認めてもらえますよ!


まとめ:投票所の1票の裏には、誰かの不眠不休のドラマがある

次に選挙があるとき、テレビの速報を見ながら「またか」と思うかもしれません。あるいは、投票所で投票用紙を受け取るとき、その紙の感触に選管職員の苦労を思い出すかもしれません。

選挙は、民主主義の祭典などと華やかに呼ばれることもありますが、その実態は、

名もなき公務員たちの不眠不休の努力と、ギリギリの調整によって支えられている巨大な装置

です。

予算を即座に動かす財政課、現場で泥をかぶる選管、そして動員される全庁の職員。その一人ひとりのプロフェッショナリズムがなければ、私たちは一票を投じることすらできないのです。

この嵐のような日々を戦い抜くすべての公務員の方々に、心からの敬意を。 そして、もしあなたがこの不条理な構造に限界を感じたときは、思い出してください。

その修羅場を乗り越えたあなたは、どこへ行っても通用する強さとスキルを、すでにその手に持っているということを。

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この記事を書いた人

20年以上にわたり、市役所・県庁、そして総務省といった「地方自治」の最前線でキャリアを積んだ元地方公務員。自治体経営の要である「財政課長」として、「現場に寄り添う予算査定」をポリシーに、数多くの予算編成や行財政改革を完遂。議会からも厚い信頼を寄せられた実績を持つ。

組織の意思決定の舞台裏で培った「公務員のリアルな実務」と、激務の中で見出した「キャリア構築の知恵」を余すことなく公開。難解な制度や、複雑な職場の人間関係といった壁に直面する現役職員へ、元財政課長の視点から忖度なしの具体的解決策を提示します。

天然キャラながら時に核心を突く相棒「ねこ」とともに、地方自治体の世界を分かりやすく解剖。若手公務員の成長と、組織に埋もれない「賢い生き残り戦略」を全力でサポートします。

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