
【この記事で分かること】
- 2026年4月開始の「給食費負担軽減」の全貌: 文科省資料に基づく全国一律の基準(月額5,200円)と、それが自治体に迫る「差額負担」の政治的リスク。
- 「補助金」と「交付税」による5:5折半スキーム: 地方負担分の2,600円分は単なる「計算上の数字」であり、実態は自治体の一般財源を削って捻出する構造であること。
- 「総務省財政課事務連絡(旧財政課長内かん)」が語る真実: 基準財政需要額への算入が、交付税をもらえない「不交付団体」にとってはいかに過酷な仕打ちであるか。
- 現場を襲う食材費高騰と事務負担の増加: 都道府県が中継ぎに入ることで発生する複雑な交付事務と、物価変動リスクをすべて自治体が負うことになる未来。
「2026年4月から、小学校の給食費が実質的に無償化される」
新聞の一面を飾ったこのニュースを見て、多くの方が「ようやく国が動いた」と胸をなでおろしたかもしれません。しかし、私たち地方自治体の予算編成を担う人間、特に財政担当者にとっては、このニュースは手放しで喜べるものではありませんでした。
むしろ、政府・与党の公表資料と、そして1月23日付けで総務省が示した「旧財政課長内かん」を並べて読み解いたとき、背筋が少し寒くなるのを感じたのが本音です。
なぜなら、そこには「国が半分持つ」という甘い言葉の裏側に、地方財政の仕組みを熟知した人間でなければ見落としてしまうような、極めてシビアな「財源の押し付け」と「自治体間格差」の構図が隠されていたからです。
今回は、元財政課長の視点から、この「給食無償化(負担軽減)スキーム」の正体を、専門用語の裏にある生々しい実務の感覚とともに解き明かしていきたいと思います。
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2026年4月開始が決定!小学校給食「負担軽減」の衝撃
2025年12月18日。文部科学省のホームページに、与党の資料が参考資料として掲載されました。そこには、これまで自治体ごとにバラバラだった給食費の無償化について、2026年4月から「全国一律の制度」として実施する方針が明記されています。
まずは、その中身を冷静に整理してみましょう。
12月18日の与党資料を読み解く
今回の制度の肝は、月額「5,200円」という基準額の設定にあります。これは、国が「全国の小学校給食費の平均(物価スライド加味)」として算出した数字です。
この5,200円を上限として、保護者の負担をなくす、あるいは大幅に軽減しようというのが今回の狙いです。一見すると、非常にシンプルで分かりやすい支援策に見えます。
しかし、財政課長としての私の目は、その金額よりも「財源の出どころ」が気になったのです。
「無償化」ではなく「負担軽減」という言葉の重み
文科省は、この制度をあえて「無償化」ではなく「負担軽減」という言葉で表現することがあります。これは単なる言葉のあやではありません。
なぜなら、給食費が月額5,200円を超えている自治体については、その「差額」をどう扱うかが各自治体の判断に委ねられているからです。
- 差額を市町村が自腹で持つか?
- 差額分だけは保護者から徴収し続けるか?
もし後者を選べば、住民からは
「全国一律で無償化されたはずなのに、なぜうちはお金を取られるのか」という猛烈な批判
が来ることでしょう。
一方で、前者(市町村負担)を選べば、それは新たな「持ち出し」が発生することを意味します。つまり、この制度が始まった瞬間、
自治体は「政治的リスク」か「財政的負担」かの二択を迫られる
ことになるのです。
そして、この「負担」の議論をさらに複雑にしているのが、「国と都道府県との財源折半スキーム」です。
「補助金」と「交付税」の抱き合わせ。財源5:5の裏側
今回の無償化スキームでは、基準額5,200円の財源を国と地方で半分ずつ分け合います。そして、その地方負担部分に交付税措置を講じる、という形にしています。
ここを正確に理解しておかないと、首長や議員から「国が半分くれるんだから、残りの半分くらい出せるだろう!」と詰められたときに、理論武装ができなくなります。
今回の件について、文科省と総務省がどういう財政措置を講じるのか、見ていきましょう。
文科省ルート:目に見える現金「国庫補助金」
まず、国が直接負担する2,600円分。これは文部科学省の予算として計上され、自治体には「国庫補助金」として交付されます。
使い道は給食費に限定されていますが、自治体の通帳には確実に「現金」として振り込まれます。これは分かりやすいですね。



いわゆる「紐付き補助金」というやつにゃね。



地方分権を推進する立場だと本来良くないのですが、「国に強制的にさせられる案件」はこれでもらわないと、財政課としてはやってられません。
総務省ルート:目に見えない数字「地方交付税措置」
問題は、残りの2,600円分です。
「総務省財政課事務連絡(旧財政課長内かん)」を読み解くと、この地方負担分は「普通交付税(基準財政需要額)」に算入する**ことで手当てすると書かれています。
財政課以外の職員の方には少し分かりにくいかもしれませんが、ここが最大の落とし穴です。
まずは原文を見てみましょう。
(3) 学校給食費の抜本的な負担軽減(いわゆる給食無償化)については、保護者負担の軽減を通じた子育て支援に取り組む地方公共団体への支援として、「給食費負担軽減交付金(仮称)」の創設により、食材費相当額(給食実施校の在籍児童数に支援の基準額を乗じた額)を対象として、令和8年4月から給食を実施する公立の小学校(義務教育学校前期課程及び特別支援学校小学部を含む。)を支援することとしていること。給食実施校の児童については、保護者の所得にかかわらず、一律に支援対象とすることとしているが、生活保護の教育扶助や要保護児童生徒、特別支援教育就学奨励費の対象となっている児童は、現行制度の適用を優先することとしていること。子育て支援を図るとの制度趣旨や、広域的な支援により財政力の違いによ
らず各市町村の給食の質を確保すべきとの観点から、今般の取組については、その負担割合について、国1/2、都道府県1/2とすることとしていること。(4) 上記(2)及び(3)に係る地方負担については、地方財政計画の歳出に全額計上するとともに、地方の安定財源を確保した上で、一般財源総額を増額確保することとしていること。また、個別の地方公共団体の地方交付税の算定に当たっても、地方負担の全額を基準財政需要額に算入することとしていること。具体的には、上記(2)に係る地方負担については、各地方公共団体における公立高校の生徒数と私立高校の生徒数のそれぞれに生徒一人当たりの支援単価を乗じることにより、上記(3)に係る地方負担については、各地方公共団体における児童数に児童一人当たりの支援単価を乗じることにより算定することとしていること。
また、上記(2)及び(3)の実施に当たって必要な事務費については、いずれも全額国費による負担として措置することとされていること。



読む気の失せる文章にゃん…



まあ、そう言わずに。大事なことが書いてありますよ!
「交付税で措置される」ということは、国が新たに現金を2,600円×人数分を振り込んでくれるわけではありません。自治体の財政力を計算する物差し(基準財政需要額)の中に、「給食費としてこれくらい必要だよね」という数字を積み増してくれるだけなのです。
財政課長の視点:それは「他を削れ」という無言の圧力
ここが、私が今回のスキームを「キツい」と感じる理由です。
これを見ると「基準財政需要額が加算されたら、その分だけ交付税は増えるんじゃないの?」と思いそうですが、実際のところ、地方交付税総額は地方財政計画の歳出総額から導かれるので、仮にこの部分が増えていたとしても、他の部分で削られていたら、交付税としては「プラマイゼロ」になってしまいます。
そして、今回の給食無償化のように「国から一方的にさせられる案件」であれば、財源の余力を国によって奪われてしまうので、これは本来、とても良くない手法なのです。
総務省資料が示す「地方財政対策」の罠:不交付団体の絶望
「地方負担分の50%は交付税措置されるから安心だ」 もし、あなたの職場の首長や幹部がそう楽観視しているなら、先ほどの「総務省財政課事務連絡(旧財政課長内かん)」を説明してください。
財政担当者にとって、この事務連絡は聖書(バイブル)のようなもの。そこには、文科省の華やかなプレスリリースには書かれていない、地方財政の真実が詰め込まれています。
「基準財政需要額」への算入:お金は「空」から降ってこない
地方負担分については「基準財政需要額に算入する」と明記されています。これは、ざっくり言うと、各自治体の財政需要を計算する際に、給食費相当分を積み上げるという意味です。
交付団体であれば、需要額が増えた分、理論上は交付税の受給額が増える可能性があります。しかし、それはあくまで「計算上の不足分」を埋めるためのものであり、給食費としてそのまま右から左へ流せるような「色がついたお金」が追加で届くわけではなく、仮に総額が変わらないのであれば、「給食費の分だけ、他のどこかの需用額が削られている」という構図になってしまいます。



ただ、今回に関していえば、税収増などの影響で地財総額が膨らんでいるから、分析・評価は難しいところですけどね。
ましてや、今回の給食無償化のように「国から一方的にさせられる案件」であれば、財源の余力を国によって奪われてしまうので、これは本来、とても良くない手法なのです。



交付税措置は、どこまでいっても地方負担。これを忘れてはいけないにゃ!



文部科学省みたいな事業官庁は、分かってか分からずか、「交付税措置=財源措置したよ」みたいな感じで誘導してくるので、要注意です!
交付税をもらえない自治体はどうなる?
このスキームが最も残酷に牙を剥くのが、「不交付団体」です。
東京都や、財政力指数が高い一部の豊かな市町村(いわゆる不交付団体)には、そもそも地方交付税が1円も交付されません。それにもかかわらず、国は「交付税措置するから、残りの半分は地方で持ちなさい」というルールを全国一律で適用します。
- 交付団体: 2,600円(補助金) + 2,600円(交付税措置という名の一般財源)
- 不交付団体: 2,600円(補助金) + 2,600円(完全な自腹)
交付税措置という言葉は、不交付団体にとっては「実質的なゼロ回答」に等しいのです。
格差をなくすための全国一律制度のはずが、蓋を開けてみれば、自治体の「お財布事情」によって、制度を維持するためのコスト(持ち出し分)が全く異なるという、極めて不条理な構造が出来上がっています。



てことは、東京都みたいなところは財源を奪われる話になるのかにゃん?



鋭い!実は東京都の財源はあまりに多すぎて、財政調整機能のブレーキになっているとの指摘があり、これを通じて東京都の財源をはがしに言っている…という説もあるくらいなのです。



にゃるほど、地財計画の「不交付団体財源超過額」を減らしにいくわけにゃんね!



財務省主計局がだいぶ厳しくマークしてるらしいですからね…
さゆりの分析:自治体の「自律性」が試される時
私が総務省や県庁にいた頃、こうした「国が方針を決め、財源の半分を地方の一般財源に委ねる」という手法は、地方分権という名の「負担の付け回し」ではないかと、何度も議論になりました。
今回のスキームは、国が地方の「一般財源」の使い方を、給食費という特定の項目に事実上ロックしてしまったことを意味します。
格差を埋めるはずの制度が、その財源確保のプロセスにおいて、新たな自治体間格差と、自治体内部での優先順位の歪みを生み出している。この現実に、私たちはどう向き合うべきなのでしょうか。
「5,200円」の壁と食材費高騰。現場で起きる「隠れ負担」
マクロな財源論の次は、より現場に近い「単価」と「事務」のリアリティについてお話しします。
文部科学省が示した基準額「5,200円」。この数字が独り歩きを始めていますが、実務に携わる人間なら誰もが抱く不安があります。それは、「この金額で本当に足りるのか?」という極めて現実的な問いです。
基準額は「平均」に過ぎないというリスク
学校給食法に基づき、これまで給食費は保護者が負担する「食材料費」として整理されてきました。
今回の5,200円という数字は、全国の平均値をベースにはじき出されたものです。しかし、ご存知の通り、食材費は地域によって、あるいは献立の質によって大きな差ががあります。
もし、あなたの自治体の現在の給食単価が 5,500円 だった場合、どうなるでしょうか。
- パターンA:差額の 300円 を保護者から徴収し続ける。
- パターンB:差額の 300円 を市町村の一般財源で持ち出し、完全無償化を維持する。
「全国一律で無償化(負担軽減)」と大々的に報じられている中で、パターンAを選択するのは政治的に極めて困難です。住民からは「うちは完全無償じゃないのか」という突き上げが来るでしょう。結果として、多くの自治体はなし崩し的にパターンB、つまり
「国・県が見てくれない端数」を自腹で被る
ことになります。
さらに恐ろしいのは、近年の食材費高騰(インフレ)です。一度「無償」の看板を掲げてしまえば、食材費が上がったからといって、後から保護者に「やっぱり数百円だけ払ってください」とは言えません。物価変動のリスクを、すべて自治体の一般財源が飲み込む構造が、ここで確定してしまうのです。
都道府県の「関与」がもたらす事務の三重苦
今回のスキームのもう一つの特徴は、都道府県が財源の半分(地方負担分の 100%)を担い、市町村への交付事務を行う点にあります。これが、教育委員会や学校現場に「新たな事務の山」を築くことになります。
本来、市町村の事務であるはずの給食に都道府県が資金を出すということは、そこに必ず**「審査」と「報告」**が発生します。
- 国(文科省)から都道府県への交付申請
- 都道府県から市町村への交付決定と実績報告の督促
- 市町村から都道府県への詳細な執行データ提供
これまでは市町村の判断で完結していた給食費の処理が、今後は都道府県の「補助金執行ルール」に縛られることになります。対象となる児童生徒の確認、私立学校に通う子の扱い、市外の学校へ通う子の清算……。財政課長として多くの補助金を見てきましたが、これほど対象人数が多く、かつ「1円のミスも許されない」性質の経常経費を、県と市で突き合わせる事務負担は想像を絶するものがあります。
食材費という「動くターゲット」を追いかけながら、複雑化した事務の網を潜り抜ける。2026年4月のスタートまでに、現場が解決しなければならない課題は、単なる「お金の計算」以上に重たいものになるはずです。
まとめ:私たちは「国の代役」をいつまで続けられるか
「国が制度を決めるが、お金も事務も地方が半分背負う」
今回の給食無償化(負担軽減)のスキームは、まさに今の日本の地方財政が抱える歪みを象徴しています。国が一律の「看板」を掲げ、その維持コストを地方の一般財源に、それも地方交付税という極めてテクニカルな仕組みを通じて「強制的に」割り当てていく。
財政課長としての私の経験上、一度一般財源化した支出を止めることは、給料カットと同じくらい困難です。
今回の2,600円という地方負担は、未来永劫、私たちの自治体の「自由な財布」を縛り続ける
ことになります。
現場の職員にできること
制度が始まる2026年4月まで、私たちに残された時間は多くありません。今、現役の皆さんに求められているのは、単に「県から言われた通りに事務をこなす」ことではないはずです。
- 自公・維の三党合意や文科省の動向を注視し、制度の「綻び」をいち早く見つけること。
- 自分の自治体の「交付税算定」への影響をシミュレーションし、首長に「本当の負担感」を正しく伝えること。
- そして、食材費が基準額を超えた際の対応を、今のうちに庁内で議論しておくこと。
「旧財政課長内かん」の一行に一喜一憂するのではなく、その裏にある意図を読み解き、住民と自治体の未来を守るために汗をかく。それこそが、泥臭い実務を知る私たち公務員の「プライド」ではないでしょうか。
給食無償化という「美談」の裏で、今まさに始まろうとしている財源のパズル。この記事が、皆さんがそのパズルに挑むための強力な武器になることを、心から願っています。





