
【この記事で分かること】
- 猟友会依存の限界とリスク: ボランティア精神に頼り切った現状が、出動拒否や技術継承の断絶を招き、地域の安全を脅かしているという厳しい現実。
- 「ガバメントハンター」導入のメリット: 自治体が直接関与することで実現する、迅速な初動対応、法的責任の組織化、そして科学的な知見に基づく高度な防除体制。
- 「コスト」ではなく「インフラ投資」という考え方: 事故が起きた後の莫大な社会的・行政的損失を防ぐために、プロに正当な対価を払うことは、中長期的に見て最も合理的な財政判断であること。
- 捕獲を超えたスペシャリストへの期待: データの分析から住民啓発まで。野生動物との共生をデザインする「職業としてのハンター」を確立し、次世代に技術を繋ぐ必要性。
ここ最近、ニュースで「猟友会がクマの駆除要請を辞退した」という報道を目にする機会が増えました。このニュースを、単なる「地方の困りごと」として聞き流している自治体職員の方は、正直に言って危機管理の認識が甘いと言わざるを得ません。
これまでの鳥獣害対策は、地域の「腕に覚えのある有志(猟友会)」の善意とボランティア精神に、あまりにも甘えすぎてきました。しかし、その「善意の依存」は今、限界点を突破しようとしています。
命の危険を伴い、一歩間違えれば発砲を巡って法的責任を問われ、さらには一部の世論から「かわいそう」とバッシングを浴びる。その代償が、経費を引けば赤字になるような数千円の日当だとしたら――。もしあなたがその立場なら、自分の生活や家族を犠牲にしてまで出動し続けるでしょうか?
「住民の安全を守る」という自治体の最も根源的な役割を果たすために、今こそ私たちは「おカネと責任」の議論から逃げてはいけません。
そこで今、強力な解決策として浮上しているのが、プロの捕獲技術者、いわゆる
の養成と確保です。
元財政課長として、この問題を「予算」と「実務」の観点から解剖し、なぜ今、プロに正当な報酬を払うことが「最も安上がりで誠実な行政判断」なのか、その理由を明らかにしていきたいと思います。
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猟友会の現状:高すぎるリスクと「日当数千円」の矛盾
まず直視すべきは、現在多くの自治体が猟友会に対して行っている「報償金」制度がいかに形骸化しているかという事実です。
「出動するほど赤字」という現場の悲鳴
多くの自治体では、クマの出動に対する日当は数千円から、高くても1万円程度。ここから移動のガソリン代、高価な猟銃の弾代、さらには自分の身を守るための保険代を差し引くと、手元にはほとんど残りません。
それどころか、仕留めた個体の処理費用までハンター持ちというケースさえあります。これでは「公務」ではなく、もはや「高額な持ち出しを伴うボランティア」です。
法的リスクと社会的プレッシャーという重圧
さらに現場を追い詰めているのが、
法的・社会的なリスク
です。
住宅街近くでの発砲判断を巡り、後に公安委員会から猟銃所持許可を取り消されたり、訴訟に発展したりするケースが現実に起きています。行政の要請で現場に駆けつけた一市民が、その場の判断一つの責任をすべて負わされる。この歪な構造こそが、ハンターたちが「もう限界だ」と声を上げている最大の理由です。



むちゃくちゃすぎる話だにゃん…なんでこんなのがまかり通るのかにゃ…



有害鳥獣対策は環境省、農作物を守るのは農林水産省、猟銃の許可は警察庁・公安委員会と、同じ動物の話なのに、所管が国レベルで割れていて、それぞれが部分最適で判断しているのが原因でしょうね…
ガバメントハンターとは何か?「プロを雇う」という決断
ガバメントハンターとは、一言で言えば「自治体が直接雇用する、あるいは実質的な専属契約を結ぶプロの捕獲技術者」のことです。従来の「有害鳥獣駆除員」との決定的な違いは、それがボランティア精神に基づく副業ではなく、**「生活を支えるための職業」**として確立されている点にあります。
この仕組みを導入することで、自治体は以下の3つの大きなメリットを享受できます。
1. 「お願い」から「職務」へ:迅速な初動対応
猟友会への要請は、あくまで「会員の都合がつく範囲での協力」です。
しかし、クマが小学校の通学路に出没した際、「仕事が忙しくて誰も行けない」という事態は許されません。
ガバメントハンターは行政の組織内に組み込まれているため、事案が発生した瞬間に「職務」として直ちに出動します。この初動の速さこそが、住民の命を守るための絶対条件となります。
2. 高度なスキルの維持と科学的管理
捕獲技術は一朝一夕で身につくものではありません。
プロとして毎日フィールドに出るガバメントハンターは、常に高い技術を維持できるだけでなく、最新の法制度や科学的な個体数管理手法にも精通した「野生動物管理のスペシャリスト」となります。
「ただ撃つだけ」ではなく、なぜ出没したのか、どうすれば防げたのかというデータ分析まで行える存在は、現代の鳥獣対策には不可欠です。
3. 個人のリスクを組織が引き受ける
最大のメリットはここかもしれません。
発砲の是非を巡る法的リスクや世論からの批判を、現場のハンター個人に背負わせるのではなく、自治体という「組織」が前面に立って引き受ける
ということ。
公務員、あるいは受託業者として明確な立場を与えることで、正当な権限と責任の所在をはっきりさせ、現場が萎縮せずに最善の判断を下せる環境を整えることができます。



「お願い」ではなく「仕事」として取り組んでもらうのがポイントです。
【本丸】元財政課長が読み解く「ガバメントハンターの予算化」
プロを雇うための予算を、どう捻出し、どう議会に説明するか。そこには実務的な「ロジック」が必要です。
人件費の考え方:身分と形態の選択
まずは、どのような形態で「プロ」を確保するかです。主に以下の3つのパターンが考えられます。
- 会計年度任用職員(専門職): 自治体の直接雇用です。「鳥獣対策専門員」といった名称で募集をかけます。初動対応を優先させたい場合、行政の指揮命令系統に直結しているこの形態が最も強力です。
- 地域おこし協力隊(起業・定着型): 若手ハンターを移住者として受け入れるなら、この制度が使いやすいでしょう。国から一定の財政支援が出るため、自治体の持ち出しを抑えつつ、将来的な「ハンターとしての起業」までを見据えたキャリアパスを描けます。
- 業務委託(固定給型): 地元の有力なハンターや、専門の捕獲会社と年間契約を結びます。「1頭いくら」の成果報酬ではなく、月額固定の「待機料・パトロール料」を支払う形にすることで、プロとしての生活を安定させることができます。
財源の確保:国のおカネを賢く使う
全額一般財源で賄うのは、財政状況が厳しい中、予算要求を通すのは難しいかもしれません。そこで、国の補助制度を活用したり、交付税措置の話をしたりして財政課を説得する必要が生じます。
- 指定管理鳥獣捕獲等事業: 環境省の交付金を活用し、捕獲事業そのものを委託する形です。近年、クマの被害拡大を受けて支援が強化される傾向にあります。
- 地方交付税の「鳥獣被害対策」: 標準的な対策経費は、すでに地方交付税の算定項目(基準財政需要額)に含まれています。これを「単なる経費」ではなく「人件費の裏付け」として再定義し、財政課と交渉することが重要です。



交付税措置は、特定財源ではなく、「一般財源対応が必要だが、標準的な行政経費として国が認めているもの」。ここをしっかり押さえて財政課と話をすると「お、この人は分かってるな」となりますよ。
財政課長時代、私が最も重視したのは『その支出が将来のコストを減らすかどうか』でした。
『ハンターに月給を払うなんて贅沢だ』という声があるかもしれません。でも、クマが一人襲えば、その被害者への見舞金、捜索のための警察・消防の動員、風評被害による観光収入の激減……。一度の『事故』で吹き飛ぶ行政コストは、数千万円から数億円に達することもあります。
プロを常駐させて未然に防ぐことは、防波堤を築くのと同じ『インフラ投資』なんです。被害が出てから『災害復旧』にお金を使うよりも、はるかに安上がりで、かつ住民の信頼を守れる。このロジックを崩さずに議会で語れるかどうかが、予算獲得の分かれ目になります。
捕獲だけが仕事じゃない。データと共生を支える専門職へ
プロのハンターを組織に迎え入れることは、単に「腕利きの狙撃手」を確保すること以上の意味を持ちます。彼らの真の価値は、引き金を引く瞬間以外の「23時間59分」の活動にこそあるからです。
1. 科学的根拠に基づく「野生動物管理」
ガバメントハンターの重要な任務の一つは、データの収集と分析です。
捕獲した個体の性別、年齢、胃の内容物、そしてGPSによる行動ログ。これらを蓄積することで、「なぜこの時期に、このルートで出没したのか」というメカニズムが見えてきます。 「勘」に頼る駆除から、科学的なエビデンスに基づく「管理(マネジメント)」へ。この転換こそが、無闇な殺生を減らし、効果的な防除を実現する鍵となります。



EBPM的な考え方が、この世界でも役に立つのにゃん。
2. 住民との対話を担う「広報官」としての顔
クマが出没した際、住民が抱く恐怖心は計り知れません。
そんな時、専門的な知見から「今はこういう状況だから、こう対策しましょう」と冷静にアドバイスできるプロが現場にいることは、何物にも代えがたい安心感を与えます。
また、生ゴミの管理や緩衝帯(草刈り)の重要性を住民に説くなど、捕獲の手前にある「出没させない環境づくり」を指導する教育者としての役割も期待されています。
3. 若者が憧れる「新しいキャリア」の形
現在、猟友会の高齢化は深刻です。
しかし、北海道などの先行事例では、自治体が「職業ハンター」として道筋を示すことで、20代・30代の若者が志願するケースが増えています。
「おじいちゃんのボランティア」ではなく、「地域を守る公的なスペシャリスト」としての地位と、生活を営める十分な報酬。これらが揃って初めて、次世代にこの重要な技術を継承していくことが可能になります。



「ハンター」と言われるものの、実際は「銃も撃てる野生動物の専門官」ですよね。
【まとめ】「命の値段」を適正化することが、地域を守る近道
野生動物との境界線が曖昧になり、かつてないほど「人身被害」の恐れが高まっている今、行政に求められているのは「覚悟」です。
「ボランティアなんだから、安く済んで当たり前」 「命を懸けるのは、好きでやっているからだろう」
こうした無意識の搾取を続けている限り、いざという時に私たちの盾となってくれるプロは、地域からいなくなってしまいます。 専門性にふさわしい「しっかりとした報酬」を払い、個人のリスクを組織が引き受ける。この当たり前の「敬意の表明」こそが、結果として最も効率的で、持続可能な地域防衛策になるのです。
おカネの話を避けることは、責任から逃げることと同義です。
今こそ、現場の悲鳴を予算の理屈に翻訳し、新しい時代の「公教育・公共安全」の一部としてガバメントハンターを位置づけるべき時が来ているのです。





