
【この記事で分かること】
- 除雪の優先順位設定: 投票所を「民主主義の聖域」として守り抜くための建設部局・業者との具体的な調整術。
- 職員の安全・コンディション管理: 厳寒期の事務ミスを防ぐ暖房環境の整備と、深夜・早朝の移動に伴う事故リスクの回避策。
- 有権者の動線・安全確保の徹底: 高齢者が安心して一票を投じられるための、一歩踏み込んだ会場設営とリスクヘッジの考え方。
窓の外から差し込む日差しは明るくても、空気の冷たさに身が引き締まる1月下旬。役所の廊下ですれ違う選挙管理委員会の職員たちの顔つきが、日ごとに険しくなっていくのを感じます。
2026年2月に控えた投開票。この時期の選挙において、私たちが最も恐れ、かつコントロールできない不確定要素――それが「雪」です。
「もし当日に大雪が降ったら、誰が雪をかくのか」「開票所の暖房費はどう工面するのか」「そもそも有権者は来てくれるのか」
選挙は民主主義の根幹ですが、冬の選挙はそれ以上に「自治体の危機管理能力」そのものが問われる総力戦です。
今回は、雪の選挙を乗り切るための「現場のリスク管理」と、それを支える「予算の考え方」について、私の経験に基づいた生々しい実務の視点をお話しします。
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2月の選挙における「積雪」のリスクと自治体運営の課題
冬の選挙、特に2月の投開票は、通常の選挙運営のロジックが通用しない場面が多々あります。まず直面するのは、「平時とは比較にならない運営コストの膨張」と「職員の極限状態の負担」です。
なぜ冬の選挙は運営コストと職員負担が激増するのか
冬の選挙で予算担当者が頭を抱えるのは、光熱費と委託料の跳ね上がりです。
例えば、開票所となる大規模な体育館。通常、夏の選挙であれば窓を開けて換気すれば済みますが、2月の深夜はそうはいきません。暖房をフル稼働させ、場合によっては燃料の備蓄も常に気にかけなければなりません。
この「燃料費」の積算が、近年のエネルギー価格高騰も相まって、当初の予算枠を容易に突破してくるのです。
さらに深刻なのが人員の問題です。 雪が降れば、投票所の入り口や駐車場の除雪が必要になります。本来、選挙事務に専念すべき職員が、早朝からスコップを手に雪かきに追われる。あるいは、除雪業者の緊急出動を依頼するために、土木部局と未明から調整に走る。
こうした「目に見えない動員」は、職員の疲労を蓄積させるだけでなく、本来最も注意を払うべき「投開票事務の正確性」を脅かすリスク要因となります。
こうした「前日からの雪との戦い」は、そうでなくても疲労によるミスが出やすい選挙事務における、さらなる追加的リスクとなって襲いかかってくるのです。
「12月ができたから2月も大丈夫」という、雪国を知らない論理
かつて12月に衆議院選挙などが行われた際、大きな混乱なく乗り切った実績を持つ自治体も多いでしょう。
しかし、その経験を盾に
「12月ができたのだから、2月も同じようにできるはずだ」と考えるのは、雪国の実情を全く理解していない、非常に危険な発想
だと断じざるを得ません。
12月の雪は、いわば「初雪」の延長線上にあります。地面はまだ熱を持っており、雪が降っても溶けやすく、何より「雪を捨てる場所」がまだ街の中に残っています。
対して2月は、冬のピークです。連日の寒波で地面は芯まで凍りつき、これまでに積み重なった雪が「根雪(ねゆき)」となって、排雪スペースを完全に奪っています。
12月なら数時間で済んだ作業が、2月にはその数倍の時間を要し、重機すら入れない。この「積雪の累積」という圧倒的な差を無視して計画を立てることは、現場に不可能を強いることと同義なのです。



多分今回の解散総選挙の判断に際しては、この辺のことは完全に頭になかったんでしょうね…。
雪に埋もれるポスター掲示板:設置不能リスクと場所の確保
今回の選挙準備において、多くの自治体職員を悩ませているのが「ポスター掲示板」の設置です。
通常、掲示板は公道の路肩や空き地に設置されますが、2月の雪国では、それらの場所はすべて「除雪された雪の山」に覆われています。
掲示板を立てるためにまず数メートルの雪山を崩し、排雪することから始めなければならない。この工程は、通常の選挙予算やスケジュールには想定されていないものです。
さらに深刻なのが、地面の凍結です。 掲示板の杭を打ち込もうにも、アスファルト並みに硬く凍った地面がそれを拒みます。無理に打ち込めば杭が折れ、設置が不十分であれば、冬の突風で掲示板ごと吹き飛ばされ、通行人や車両を傷つける凶器になりかねません。
「掲示板が雪に埋まって候補者の顔が見えない」「除雪の邪魔になるから設置場所を動かしてくれ」といった住民からの要望や苦情。
これらは、雪国において2月に選挙を行うことが、どれほど現場の「物理的な限界」に挑んでいるかを象徴しています。私たちが今向き合っているのは、政治の論理ではなく、自然の猛威そのものなのです。
過去の事例から学ぶ、積雪が投票率と投開票に与える影響
過去、大雪に見舞われた選挙のデータを見ると、投票率への影響は顕著です。特に高齢者の多い地域では、足元の悪さがそのまま「棄権」に直結します。
しかし、自治体にとっての真のリスクは投票率の低下だけではありません。
「投票所までたどり着けない」
というクレームが一点集中することによる、電話応対のパンクです。
私が経験したある選挙では、投票開始の午前7時になっても駐車場の除雪が間に合わず、激怒した有権者からの電話で選管の回線が埋まりました。結果、現場の判断が本庁に伝わらず、指示系統が麻痺するという悪循環に陥ったのです。
積雪は、単なる気象現象ではなく、自治体の「指示命令系統」と「広報能力」を試すフィルターとして機能します。2月の選挙を控えた今、私たちが準備すべきは、きれいなマニュアルではなく、「雪が降った瞬間に誰がどこへ動き、どの予算を動かすか」という泥臭い行動指針なのです。



このあたりは選挙というよりは除排雪事業の問題ではありますが…選挙にも当然影響が出ますもんね。
投票所を維持するための具体的な「雪対策」と実務
さて、このような過酷な「真冬の選挙における雪との戦い」をどうすべきか。ここでは、単なるマニュアルを超えた、現場で「本当に動ける」ための対策を整理します。
投票所までの動線確保と除雪業者との事前調整
まず、もっとも重要なのは「除雪の優先順位」の組み替えです。
自治体の除雪計画は、通常、幹線道路や救急病院へのルートが最優先に組まれています。しかし、選挙当日に限っては、市内数十箇所にある「投票所」が一時的にその優先順位のトップクラスに躍り出ることになります。
ここでよく起きる失敗が、選管部門だけで除雪を抱え込んでしまうことです。 土木・建設部門が契約している除雪業者に対し、「当日の朝4時までに投票所の駐車場と入り口を空けてほしい」という指示が、正式なルートで伝わっているか。これを1週間前までに確認しておくのが、管理職の最低限の仕事です。
私が財政課長だった頃は、単に「調整しました」という報告ではなく、「どの業者が、どの重機で、どの順に回るか」のリストを見せてもらうようにしていました。特に、学校のグラウンドを駐車場にする場合、入り口の一段高い段差が雪で隠れ、車がスタックして立ち往生するケースが多発します。「入り口の段差にポールを立てる」といった、現場を知る人間にしかできない小さな配慮が、当日の大混乱を防ぐのです。
有権者の安全を守る融雪剤・スリップ防止対策の重要ポイント
除雪車が通った後、実は本当の危険が始まります。それは、薄く残った雪が踏み固められ、ブラックアイスバーン化することです。
投票に来るのは元気な若者ばかりではありません。杖をついた高齢者にとって、投票所入り口のわずかな傾斜は、命がけの難所になります。
ここで準備すべきは、十分すぎるほどの「融雪剤(塩化カルシウム)」と「砂」です。 「倉庫にあるから大丈夫です」という報告を鵜呑みにしてはいけません。いざ雪が降ったとき、その倉庫の鍵を誰が持っていて、誰が撒くのか。そして、撒いた後に雪がシャーベット状になった際、それを誰が掻き出すのか。
おすすめしたいのは、投票所の受付開始1時間前に「職員自身が実際に歩いてみる」ことです。革靴で滑りやすいと感じる場所には、迷わずゴムマットを敷くか、砂を厚めに撒いてください。
また、意外と盲点なのが「階段の手すり」です。雪で濡れた手すりは、手袋をしていても滑りやすく、非常に冷たいため、高齢者は手を離してしまいがちです。手すりの除雪と乾燥を徹底する。こうした「一歩踏み込んだ想像力」こそが、2月の過酷な環境下で有権者を守るための実務の真髄といえます。
極寒の開票所運営と職員の安全管理(マネジメント)
投票箱が閉まり、戦いの舞台が投票所から開票所へと移る午後8時。外の雪が激しさを増す中、広大な体育館などに設けられた開票所は、独特の緊張感と冷気に包まれます。
開票作業は一分の隙も許されない精密な事務ですが、それを支える職員たちの「身体」が極限状態にあることを、管理職や選管幹部は片時も忘れてはなりません。
暖房設備と防寒対策:事務ミスを防ぐためのコンディション維持
開票所となる施設は天井が高く、家庭用の暖房では太刀打ちできません。大型のジェットヒーターを数台設置しても、温かい空気は上へ逃げ、床面を這う冷気は職員の足元を容赦なく奪っていきます。
ここでよくある現場の判断ミスは、「予算節約のためにヒーターの稼働を控える」あるいは「換気を優先しすぎて室内温度を上げない」ことです。しかし、指先が凍えるような寒さは、票をめくる速度を落とすだけでなく、判読ミスや枚数確認の誤りといった「致命的な事務ミス」に直結します。
私が開票所において必ず確認していたのは「作業スペースの足元の温度」でした。現場の責任者には、職員に厚手の靴下や使い捨てカイロを配布するのはもちろんのこと、1時間おきに温かい飲み物を摂らせる「温熱休憩」をルール化するよう助言していました。
また、意外と見落とされがちなのが、ヒーターによる「一酸化炭素中毒」と「極度の乾燥」です。
雪の日は湿度は高いものの、強力な暖房は喉を痛め、職員の集中力を削ぎます。数時間おきに強制的な換気を行い、同時に湿度を保つ対策を講じること。こうした「環境管理」こそが、正確な開票結果を導き出すための最短ルートなのです。
深夜・早朝の移動リスクとタクシー・宿泊場所の確保
雪の選挙において、最大の危機管理ポイントは「開票が終わった後」にあります。
開票が順調に進んだとしても、確定が深夜2時や3時になることは珍しくありません。この時間帯、外の道路は完全に凍結しています。前日から長時間労働に従事し、集中力が底を突いた職員が、凍結路面を自分で運転して帰宅する――。これは自治体として、絶対に避けなければならないリスクです。
「自分の車で来たんだから自己責任だ」という理屈は、現代の労務管理では通用しません。万が一、帰宅途中にスリップ事故でも起きれば、それは公務災害や安全配慮義務違反の問題に発展します。
2月の選挙を控えているのなら、今すぐ予算の組み替えを検討し、「職員用タクシーチケットの配布」や、近隣のビジネスホテルを「待機・仮眠用」として一括借り上げする準備なども検討の余地があります。
財政部局としては、確かにこうした「直接選挙事務に関係なさそうな経費」には厳しい目を向けがちです。しかし、数万円の宿泊費を惜しんだ結果、職員の命や健康が損なわれるようなことがあれば、それは自治体経営として大赤字です。現場の管理職は、堂々と「職員の命を守るための経費」として、タクシー代や宿泊費を要求すべきなのです。
まとめ:積雪時の選挙運営を成功させるためのチェックリスト
2月の選挙運営。それは、降り積もる雪という不確定要素を、いかに「予測可能なリスク」として管理できるかの勝負です。
最後に、現場の担当者が明日から、あるいは当日の未明からでも確認すべきチェックリストをまとめました。これを一つずつ潰していくことが、そのまま住民の参政権を守ることに直結します。
雪の選挙運営:直前・当日アクションリスト
- 除雪の「最終ライン」の確認: 投票開始1時間前までに、車両がスタックせず駐車できるスペースが確保されているか?
- 「融雪剤・スコップ」の配置: 倉庫に眠っていないか? 誰でもすぐに使える場所に置かれているか?
- 開票所の「足元」の温度測定: 上半身は暖かくても、足元が氷点下になっていないか?(職員の集中力に直結します)
- 帰宅困難・事故リスクへの備え: 深夜の路面凍結を想定し、タクシーチケットや近隣ホテルの手配は済んでいるか?
- 財政部局との「握り」: 突発的な経費が発生した際の報告ルートと、予備費対応の意思疎通はできているか?
選挙という一大イベントの裏側には、華やかなニュースには決して載らない、こうした地道で泥臭い職員の皆さんの戦いがあります。
私が現役の頃、雪の中をようやくの思いで投票所にたどり着いた高齢者の方が、出口で職員に「こんな雪の中、開けててくれてありがとうね」と声をかけているのを見たことがあります。
その一言こそが、私たちが冷たい雪をかき、深夜まで票を数える理由のすべてなのだと思います。
2月の寒空の下、最前線で戦う自治体職員の皆さん。 皆さんのその震える手が、正確に票を数え、この街の未来を1ミリずつ形作っています。
くれぐれもご自身の安全と体調を最優先に。皆さんの献身が、無事に「確定」の瞬間を迎えられることを、心から応援しています。








