
送別会の二次会がお開きになったあと、まだ20代の後輩に「さゆりさん、今度子どもが小学校に上がるんですけど、朝の送り出しで1時間だけ抜けたいとき、有休を丸ごと使うしかないんですかね」と聞かれたことがあります。私は財政課長時代、何度もこの種の質問を受けました。そして毎回、同じことを答えていました。「制度がないなら、まずは国の動きを見て」と。
2026年6月、まさにその「国の動き」が大きく動きました。人事院が、理由を問わない「無給休暇」を国家公務員の制度に加える方針を固めたのです。今日は、このニュースを地方公務員の視点で読み解きます。「いつか来る話」ではなく「いつ・どう来るか」を、実際に制度改正の現場を見てきた立場から整理してみます。
さゆり結論を先に言うと、この流れは地方にも広がる可能性が高いです。問題は「いつ」と「どんな形で」です。
国家公務員に何が導入されるのか
報道によると、人事院は2027年度から、理由を問わない無給休暇を国家公務員の休暇制度に新設する方針です。年次有給休暇を使い切ったあとでも、欠勤扱いにせず柔軟に休めるようにし、取得は1時間単位でも可能になる見込みです。報道では、2026年8月の人事院勧告への反映や、その後の法改正を目指す方向と伝えられています。
今の国家公務員の制度では、規定の休暇を使い切ったあとに休むと「欠勤」となります。欠勤の状況によっては、人事評価や服務上の問題として扱われる可能性もあります。今回の無給休暇は、その「欠勤か、無理して出勤するか」の二択の間に、第三の選択肢を差し込むものです。給料は出ないものの、制度として取得できる休暇となれば、欠勤とは異なる扱いになります。なお、取得要件や上限、承認手続きといった制度の詳細はまだ固まっていません。子育て、介護、災害時の生活再建など、理由は問わない方向で検討されています。
私たちの感覚で言うと、これは単なる福利厚生の話ではありません。「休むこと」と「欠勤・懲戒」を切り離すという、制度設計の根っこを変える話です。根っこが変わる制度は、多くの自治体でも制度改正の参考になります。
財政課長時代、私が頭を悩ませたのも、まさにこの「欠勤」という扱いをめぐる話でした。育児や介護で規定の休暇を使い切ったあと、本人は「休みたい」、所属長は「欠勤にはしたくない」、でも制度上ほかに選択肢がない。結局、本人が無理を押して出勤を続け、いずれ限界が来て離職してしまう。そんな場面を何度も見てきました。今回の無給休暇は、まさにその「制度上の選択肢のなさ」に手を入れるものです。
国の制度は、どうやって地方に降りてくるのか
ここからは、財政課長時代に何度も見てきた「制度が霞が関から市役所に届くまでの経路」の話です。地方公務員法では、勤務条件は国家公務員や他団体との均衡にも配慮して定める考え方が採られており、多くの自治体では国家公務員制度の改正を参考に制度見直しが行われています。このため、人事院が国家公務員の休暇制度を改正すると、総務省が各自治体へ通知(技術的助言)を行い、各自治体がそれを踏まえて条例や規則の改正を検討する、という流れが一般的です。
実際、似たような経路を最近もたどった例があります。人事院は2024年の公務員人事管理に関する報告で、育児や介護に限らない職員の様々な事情に応じて無給の休暇で勤務時間を短縮できる仕組みの検討を示していました。それが2025年8月の人事院勧告で具体化し、同年12月には総務省から各都道府県・市町村の人事担当課宛てに、非常勤職員の休暇制度見直しに関する通知が出ています。施行は2026年4月。あくまで最近の一例ですが、報告での言及から実際の通知まで、約1年半から2年程度かかったケースもあります。
①人事院が報告・勧告で方向性を示す → ②人事院規則の改正・法改正 → ③総務省が各自治体へ通知(技術的助言)を行う → ④各自治体が条例・規則の改正を検討
この④の段階で、自治体ごとのスピード差がはっきり出ます。財政課・人事課の体制、議会のタイミング、首長の優先順位によって、早い自治体と遅い自治体の差が1年以上開くこともあります。
今回の無給休暇は、国家公務員でも2027年度導入を目指す段階で、まだ法改正前です。このペース感に当てはめると、総務省から地方への通知が出るのは早くても2027年度中、各自治体での条例改正の検討はそこからさらに先になる可能性が高いと見ています。つまり「今すぐ自分の自治体で使える」という話では、まだありません。
ただし、ここで一つ補足が必要です。地方公共団体には条例制定権があり、国の制度をそのまま待たなくても、独自に休暇制度を設けることは制度上可能です。実際、子育てや介護に関する独自の特別休暇を国より先行して設けている自治体も存在します。「国待ち」が基本パターンであることは間違いありませんが、首長や人事課の方針次第で、先行する自治体が出てくる可能性もゼロではありません。自分の自治体がどちら側に位置しているかは、人事課の動きや議会の議事録を見ておくと、ある程度の温度感がつかめます。



じゃあ今のうちにできることは何にゃ?
制度が来る前に、今の職場でできること
この手の制度改正の報道に触れたとき、私が必ず確認していたのは「今の自分の自治体は、すでにある制度をどれだけ使えているか」でした。新しい無給休暇が話題になっても、根っこにある問題は変わりません。エクスペディアの「世界11地域 有給休暇・国際比較調査2024」によると、2023年の日本の有給休暇取得率は63%で、調査対象11地域のなかで最も低い結果でした。国家公務員の本府省職員についても、20日の年次休暇のうち実際に使えているのは約7割という報道があります。
つまり「無給休暇という新しい制度ができるかどうか」より手前に、「今ある有休すら使い切れていない」という現実があります。新しい制度の到来を待つあいだにできることは、まず今の有休をきちんと消化する習慣をつけること。そしてもう一つ、自分の職場が「休みづらい空気」を変えようとしているかどうかを、冷静に見ておくことだと思います。
制度はいずれ整います。けれど、制度が整うことと、職場の空気が変わることは別の話です。条例が改正されても、上司が率先して休まず、誰かが休むと露骨に嫌な顔をされるような職場であれば、絵に描いた餅で終わります。逆に言えば、今の職場が「休みやすさ」にどう向き合っているかを見れば、この先の制度をうまく活用できる組織かどうかは、ある程度予測がつくということでもあります。
制度の到来を待つだけでなく、「今の職場が今後も変わらないとしたら」を一度考えてみるのも一つの選択です。ご自身の経験やスキルが、外でどう評価されるのかを知っておくだけでも、判断材料は増えます。
まとめ
人事院が2027年度から導入を目指す「理由を問わない無給休暇」は、欠勤と懲戒の間に新しい選択肢を差し込む、地味でも本質的な制度改正です。地方公務員にとっても、いずれ総務省からの通知を通じて条例改正の検討材料になる可能性が高いものですが、過去の一例を見る限り、報告から実際に地方への通知が届くまでには約1年半から2年程度かかったケースもあり、そこから各自治体での条例改正までさらに時間がかかると見ておくのが現実的です。
制度の到来を待つあいだも、時間は過ぎていきます。今の有休をきちんと使えているか、今の職場が休みやすさにどれだけ本気で向き合っているか。その二つを、この機会に一度確認してみてはいかがでしょうか。
参考:日本経済新聞「国家公務員に『無給休暇』導入 理由問わず、時間単位で取得可能に」(2026年6月27日)/エクスペディア「世界11地域 有給休暇・国際比較調査2024」(2024年6月発表、2023年実績)/総務省「人事院規則15-15(非常勤職員の勤務時間及び休暇)の一部改正等について」(令和7年12月8日付通知)








