
【この記事で分かること】
- 在級期間表の廃止が、具体的にどう「昇進の仕組み」を変えるのか
- なぜ国は廃止したのに、あなたの自治体では「表」が残り続けるのか
- 人事評価の裏側でささやかれる「見えない壁」の正体
- 「形だけの制度改正」に騙されないために、今すぐチェックすべき2つの書類
市役所、県庁、そして総務省。私はさまざまな立場から公務員の「お金」と「組織」を見てきました。特に財政課長時代は、予算編成の裏側で人事課とも密に連携し、「誰をどのポストに上げるか」という組織の力学を嫌というほど目にしてきました。
2026年4月1日。公務員の世界にとって、一つの大きな転換点が訪れました。国における「在級期間表」の廃止です。
「ようやく実力主義になるのか」と期待する若手もいれば、「自分たちの昇給はどうなるのか」と不安を感じるベテランもいるでしょう。しかし、長年この世界の「裏側」を見てきた私から言わせれば、これは単なるルール変更ではありません。
地方公務員の皆さんにとって、これから数年は「建前(国の制度)」と「本音(自治体の慣習)」が激しくぶつかり合う、極めて不透明な時期になります。
今回は、この制度改正が皆さんのキャリアにどう直結するのか。現場の泥臭い実務を知る元財政課長の視点から、忖度抜きで解説します。

そもそも「在級期間表」とは?昇格を阻む「見えない壁」の正体
公務員の給与明細を見ると「2級33号給」といった表記がありますよね。この「級」が上がることを昇格と言いますが、これまでは個人の能力に関わらず、昇格を物理的に阻むルールが存在していました。それが「在級期間表」です。
ねこボクなら1年で課長になれる自信があるにゃ!



残念だけど、これまでは『修行期間』という鉄の掟があったの。有能でも年数が1日足りないだけでアウト。そんな現場を山ほど見てきたわ。
年功序列を支える「鉄の掟」
簡単に言えば、「今の級に最低でも◯年以上いなければ、次の級には絶対に上げない」という年数縛りのリストです。
例えば、どんなに優秀な若手が係長級(3級や4級)の仕事を完璧にこなしていても、この表に「在級4年」とあれば、3年11ヶ月目までは絶対に昇格できません。
【これまでの昇格メカニズム】
- 1級(担当):採用から4年経過が必要
- 2級(主任):1級に昇格後、さらに5年必要
- 3級(係長):2級に昇格後、さらに6年必要
※期間は自治体により異なります
これが、公務員が「石の上にも三年」どころか「石の上に数十年」と言われる所以です。
「仕事の質」より「座っていた時間」
この表の恐ろしいところは、「評価」の入り込む余地を奪ってしまうことにあります。
私が財政課長として各課の定員査定をしていた時、ある部長から「この職員は抜群に動ける。特例で昇格させたい」と相談を受けたことがあります。しかし、人事担当者の回答は冷ややかなものでした。
「規則(在級期間表)に足りませんから、無理です」
個人の資質や実績よりも、椅子に座っていた時間の長さが優先される。これがこれまでの公務員組織を縛っていた「見えない壁」の正体でした。
しかし、2026年4月。この壁を、まずは「国」が自ら壊し始めました。
国家公務員は2026年4月から「新時代」へ
これまでの「公務員=年功序列」という常識の土台が、いま崩れようとしています。
大きなきっかけは、人事院勧告による劇的な方針転換です。2026年4月、国は形式的な「年数縛り」を撤廃しました。これは、単にルールが少し緩くなったというレベルの話ではありません。国家公務員の世界が、明確に「能力主義へのシフト」を宣言したということです。
狙いは「優秀な若手の早期登用」
この改革の最大の目的は、極めてシンプルです。「優秀な人間には、相応の責任あるポストを早く与える」。これに尽きます。
これまでの国家公務員、特に本省のキャリア組であっても、一定の年次を重ねなければ課長補佐や課長にはなれませんでした。しかし、この在級期間表の廃止によって、その「形式的なブレーキ」が外れたのです。
- 20代で係長は当たり前
- 30代前半で本省課長級も理論上は可能
民間企業では当たり前の光景が、ついに霞が関でも始まろうとしています。
「若いうちから裁量を持って働きたい」と願う優秀な層が民間や外資へ流出するのを食い止めたい。そんな国の焦りにも似た本気が、今回の「廃止」という決断には透けて見えます。
参考資料:人事院:令和6年勧告 報告(給与制度のアップデート) ※人事院の公式ページへ飛びます。
なぜ地方公務員は「検討中」止まりなのか?3つの裏事情
さて、問題はここからです。「国が変わったなら、うちの市役所(県庁)もすぐに変わるはず!」と期待した方も多いでしょう。
しかし、私が現職の自治体職員の方々から話を聞く限り、多くの現場では「国の方はそうなったみたいだけど、うちはまだ先かな……」という、どこか他人事のような空気が漂っています。
なぜ地方自治体は、これほどまでに動きが鈍いのか。私が財政課長時代に見てきた、地方ならではの「3つの壁」を深掘りします。
① 条例改正という「時間のかかる手続き」
地方公務員の場合、給与や昇進のルールは「条例」や「規則」でガチガチに固められています。これを変えるには、人事課が案を作り、法規担当と協議し、副市長・市長の決裁をもらい、そして何より「議会」を通す必要があります。
特に保守的な自治体では、「国が始めたばかりの制度を、なぜ今すぐ導入する必要があるのか?」「若手を優遇して、ベテランのモチベーションが下がったらどうするんだ?」という議員からの追及を恐れます。
「まずは国の運用を2〜3年見て、問題がなさそうなら検討しましょう」
この「前例踏襲・安全運転」の精神が、制度導入のタイムラグを生む最大の要因です。
② 「年数」という客観的な物差しを失う怖さ
人事担当者にとって、在級期間表は「最強の盾」でした。
昇進から漏れた職員から「なぜ私が上がれないのか!」と詰め寄られても、「ルール(年数)で決まっていますから」と言えば、波風を立てずに済みます。
しかし、この表を廃止するということは、「能力」や「実績」という、極めて主観が入りやすい基準で判断しなければならないということです。
- 適切な評価基準が作れていない
- 評価する側の管理職にそのスキルがない
- 評価エラー(えこひいき等)への不満を抑える自信がない
この「評価の責任」を負う覚悟が、今の地方自治体の人事部門にはまだ足りていないのが実情です。
③ 安定重視の「和」を尊ぶ組織文化
市役所や町村役場のような小さな組織では、一人の若手が飛び級で昇進することで、長年築いてきた「職場の秩序」が崩れることを何よりも嫌います。
「アイツは俺より5年も後に入ったのに、もう役職が上なのか……」
そんな嫉妬や摩擦が、狭い庁舎内で一度起きてしまうと、業務の連携に支障をきたしかねません。 「ゆっくり、みんな一緒に上がっていく」ことが、地方公務員組織の安定(ひいては市民サービスへの影響最小化)につながるという信仰にも似た文化が、改革の足かせになっています。



地方の壁は厚いのよ。条例一つ変えるにも組合との長い交渉が必要だったりする。『年功序列』は既得権益だから、そう簡単には崩れないのが現実ね。
「廃止」という言葉に騙されるな?実務の裏に隠されたカラクリ
国が「在級期間表を廃止した」というニュースを見て、自分の自治体も明日から実力主義に変わると期待するのは、少し早計かもしれません。
なぜなら、地方自治体には「表向きの廃止」と「実態としての継続」を使い分ける、巧妙な実務のテクニックがあるからです。私が財政課長として人事当局の予算や定員を査定していた際、よく耳にしたのは「内規(ないき)」という言葉でした。
「目安」という名の見えない縛り
在級期間表が廃止されたとしても、それに代わる「昇格選考基準(内規)」の中に、ひっそりと年数に関する文言が残るケースが多々あります。
具体的には、規則からは年数表を削除するものの、実際の運用指針にはこう記されるのです。
「〇級への昇格は、前級において『概ね〇年』の経験を有する者のうちから選考するものとする」
この「概ね(おおむね)」という魔法の言葉が曲者です。
人事担当者はこれを使って、「基本的にはこれまで通りの年数が必要だけど、極めて優秀な人だけは例外を認める(かもしれない)」という逃げ道を作ります。そして結局、その「例外」はほとんど適用されず、前例通りの年次で昇格が決まっていく……。これが地方公務員組織の「名前を変えて生き残るルール」の生々しい実態です。
元財政課長の「ここだけの注意点」:その廃止、本物ですか?
- パターンA(完全廃止): 条例・規則から年数表を削除し、完全に「能力評価」へ移行する。
- パターンB(基準緩和): 廃止とは言いつつ、標準的な年数を大幅に短縮した「新表」への差し替えに留める。



えっ、『廃止』なのに中身は変わらないのにゃ?



混乱を避ける『現状維持』ね。でも、この曖昧な運用の隙間にこそ、本当の実力者が入り込むチャンスが生まれたとも言えるわ。
現役職員が今すぐチェックすべき「2つの重要書類」
自分の自治体が、本気で若手を登用しようとしている「真の廃止」なのか、それともポーズだけの「形だけの廃止」なのか。それを見極めるためには、庁内LANの深い場所に眠っている2つの書類を自ら確認しに行く必要があります。
誰かが親切に教えてくれるのを待っていてはいけません。
①「給与制度の見直し」に関する通知
毎年、人事院勧告の後に各自治体で発出される「令和7年度(または8年度)の給与改定について」といった通知を確認してください。ここに、国の方針に準じた在級期間の取り扱いが明記されています。
単に「国の動向を注視する」と書かれているだけなら、当分は動きません。逆に、具体的な改定スケジュールが載っていれば、組織が動き出している証拠です。
②「昇格選考の内規(基準)」
これが最も重要です。人事課が管理している「昇格選考基準」や「昇任試験実施要領」などの文言を隅々まで読んでください。
チェックすべきポイントは、以下の通りです。
| チェック項目 | 「真の廃止」の兆候 | 「ポーズだけ」の兆候 |
| 年数の記述 | 「〇年」という具体的な数字が消えている | 「概ね〇年」「標準として〇年」と残っている |
| 評価の反映 | 「人事評価の結果が上位〇%以内」等の具体的条件がある | 「勤務成績が良好であること」という曖昧な表現のみ |
| 特例昇格 | 特例昇格の枠組みが新設・拡充されている | 特例に関する記述がそもそも無い |
もしあなたの自治体が「ポーズだけ」だった場合、あなたはこれまで通り、あるいはこれまで以上に「評価されない不遇」を味わうリスクがあります。なぜなら、表向きは「実力主義」になっているため、上がれない理由を「年数のせい」にできなくなるからです。
まとめ:年功序列の終焉に、あなたはどう備えるか
2026年4月、国が投じた一石は、いずれ必ず地方自治体の「岩盤」をも動かします。
「自分の自治体はまだ表が残っているから安心だ」と、現状維持を決め込むのは危険です。なぜなら、制度が変わるということは、これまで「年数」という見えないルールに守られていた人が、裸で「評価」という戦場に放り出されることを意味するからです。
これからの公務員人生で、私たちは二つの現実と向き合わなければなりません。
1. 「評価されないリスク」が可視化される
これまでは仕事ができなくても、机に座っていれば自動的に級が上がりました。しかし、在級期間表が廃止(あるいは形骸化)されれば、「同期は上がったのに、自分だけステイ」という状況が、残酷なほど明確に突きつけられます。
「なぜ私は上がれないのですか?」
そう人事課に食い下がっても、返ってくる答えは「ルール(年数)」ではなく、「あなたの評価が低いからです」という、言い訳のきかない一言になるのです。
2. 「組織への依存」を減らす勇気を持つ
私は財政課長として、毎年膨れ上がる扶助費や公共施設の更新費用を計算しながら、いつも心のどこかで危機感を抱いていました。「公務員の給与体系が、今のまま30年後も維持できるはずがない」と。
今回の在級期間表の廃止は、公務員の「安定」の定義が、「身分の保証」から「個人の能力への報酬」へと移り変わる序章に過ぎません。



結局、評価されない人は一生上がれないってことだにゃ…?



その通り。だからこそ組織に依存せず、どこでも通用する『自分の市場価値』を知っておくことが、これからの公務員の必須スキルになるわね。
最後に:今、あなたが打てる一手
この移行期の荒波を乗り越えるために、私がおすすめするアクションは一つです。
まずは、自分の自治体の「昇格選考基準」の文言をチェックすること。そして、もし「実力主義へのシフト」を感じたのなら、今の仕事に全力を注ぐのと並行して、「外の世界での自分の価値」を正しく把握し始めてください。
組織のルールは、ある日突然変わります。でも、あなたが磨いてきたスキルと、それを評価してくれる「外の選択肢」という武器は、誰にも奪われません。
「年功序列が崩れるなら、自分は外で通用するのか?」と不安を感じている公務員の方へ。
今の仕事が正当に評価される場所は、庁内だけとは限りません。「リクルートエージェント」で自分の市場価値や、公務員の経験を活かせるフィールドを覗いてみませんか。組織に縛られない「自分だけのキャリア」を、今のうちから準備しておきましょう。
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