
「さゆりさん、昇任試験ってやっぱり受けたほうがいいんですかね」
3月末、人事異動の内示が出たあとの庭園で、後輩からそう聞かれたことがあります。彼の手には、昇任した同期の名前が並ぶ内示の控えがありました。表情は、羨望でも諦めでもなく、「自分はどっちを選ぶべきなんだろう」という迷いそのものでした。
財政課で人件費を見ていた立場から言うと、この迷いに正面から答えてくれる人は庁内にほとんどいません。昇任した先輩は「頑張れ」しか言わないし、受けなかった先輩は「別に受けなくてもいいよ」しか言わない。どちらも、自分が選ばなかった側の数字を具体的には知らないからです。
今日は、号俸・昇格・昇任の関係から、受けない人・受からない人・受かった人それぞれのその後、そして「このタイミングで決めないと詰む」という年齢の逆算まで、人件費を見てきた立場でお話しします。
- 「号俸」「昇格」「昇任」がそれぞれ何を指すのか
- 昇任試験を受けない・受からない人が、実際どれくらいいるのか
- 昇任した場合、号俸の伸び方がどう変わるのか(仕組みの話)
- 「このタイミングで決めないと選択肢が狭まる」年齢の考え方
そもそも「号俸」「昇格」「昇任」は何が違うのか
本題に入る前に、ここを整理しておきます。この3つを混同したまま昇任試験の話を聞くと、何の話をされているのか分からなくなるからです。
ねこ号俸と昇格って、結局どう違うん?にゃ



一言でいうと、「号俸」は階段の一段一段、「昇格」は階段そのものが上の階に変わること、「昇任」は役職が上がること、というイメージです。
- 号俸:同じ等級(級)の中で、毎年の人事評価などにより原則的に上がっていく細かい単位。いわゆる「普通昇給」で動く部分です。
- 昇格:等級そのものが上がること。等級が上がると、その後の号俸の上がり方や上限が変わります。
- 昇任:係長・課長補佐・課長といった役職が上がること。多くの自治体では、昇任に伴って昇格が行われます。
つまり「昇任試験を受ける」というのは、役職を上げるための試験を受けるという話であり、その先に「昇格」が連動し、結果として号俸の伸び方そのものが変わる、という構造になっています。ここを理解していないと、「試験を受ける・受けない」がただの役職の話に見えてしまい、実は収入の伸び方の話でもあるという核心が見えてきません。
昇任試験を「受けない」「受からない」人の、本当のところ
財政課にいると、人件費の査定で各部署の人員構成を見る機会が多くあります。そこで気づくのは、昇任試験を受けない・受からない人は、決して「やる気がない人」ではないということです。
同期だったAさんは、係長試験を3回受けて、3回とも論文で落ちました。本人いわく「窓口業務と部下のシフト調整で、論文の勉強時間が物理的に作れなかった」とのこと。一方で、同じ年に試験を受けたBさんは、繁忙期の少ない部署にいたこともあり、1回で合格しています。能力の差というより、配属されたタイミングと部署の負荷の差が大きかったように見えました。
もう一人、Cさんは「受けない」を選んだ側です。昇任した先輩たちの働き方を間近で見て、「板挟みの調整業務と残業が増えるだけで、号俸が多少上がっても割に合わない」と判断したそうです。実際、管理職になると時間外勤務手当の対象外となる場合もあり、残業時間に対する評価のされ方が変わる自治体も多く、この判断には一定の合理性があります。
つまり「受けない・受からない」には、大きく2パターンあります。
- 受けたいが、業務負荷や配属の関係で勉強時間が確保できない
- 負担増と昇給のバランスを天秤にかけ、合理的に「受けない」を選んでいる
どちらも間違った選択ではありません。ただ、②のパターンで判断するには、「昇任した場合、実際にどれくらい号俸が伸びるのか」という比較対象の数字を知っておく必要があります。これを知らずに「割に合わない」と判断している人が、実は一番多いというのが、人件費を見てきた実感です。



結局、受けるかどうかってどう決めればいいんにゃ?



「割に合うか合わないか」を自分の勘だけで判断するのは、実はもったいないんです。公務員の給与体系を理解したFPに号俸・等級を伝えれば、昇任した場合・しない場合、それぞれの号俸の伸び方を一緒に確認できますよ。相談は無料・秘密厳守です。
昇任すると、号俸の伸び方はどう変わるのか
ここが、Cさんのような判断をする前に知っておいてほしい部分です。結論から言うと、昇任(および昇格)は号俸の伸び方そのもののカーブを変えます。
普通昇給だけで上がっていく場合、号俸は基本的に一段ずつ、毎年少しずつ積み上がります。これに対し、昇格が起きると、上位の等級にある号俸へ「読み替え」が行われ、そこから先の昇給カーブ自体が変わります。上位の等級になると、結果として昇給額が大きくなるケースが一般的です。



じゃあ、昇任した人としなかった人で、何年か後にはけっこう差がつくってことにゃ?



そうなんです。号俸の伸びだけでも差が出ますし、そこに役職手当が加わるので、基本給ベースで見えている差より、実際の差はもう一段大きくなります。
具体的な金額は等級表・号俸表の構成によって自治体ごとに異なるため、ここで「全員〇万円差」と言うことはできません。ただ、構造として言えるのは次の3点です。
- 昇格によって、その後の昇給1回あたりの伸び幅が大きくなる
- 役職手当が新たに(あるいは上位の額で)加わる
- この差は1年だけでなく、退職までの残り年数分、積み重なっていく
つまり「昇任を見送る」という判断は、その年の負担を避けるだけでなく、退職までの間ずっと続く昇給カーブの差を選んでいる、ということでもあります。これ自体は悪い選択ではありませんが、「知らずに見送る」のと「知った上で見送る」のとでは、納得感がまったく違うはずです。



結局、自分の場合は何年でいくら差がつくんにゃ?



ここまで読んで気になった方は、号俸表の構造を一度プロに確認してもらうのが一番早い方法です。無料・何度でも相談OKですよ。
「このタイミングで決めないと詰む」年齢の逆算思考
もう一つ、Aさんのケースで触れておきたいのが「気づいたら受けられなくなっていた」というパターンです。
多くの自治体の昇任試験には、受験可能な年齢や経験年数の条件があります。条件の細かさは自治体によって異なりますが、共通しているのは「上限がある」という点です。「いつか受けよう」と先延ばしにしているうちに、上限に近づいていき、最後は「今の部署が忙しいから、また来年」と思っていたら、その「来年」自体が受けられない年になっていた、というケースを何人も見てきました。
これは個人の意志の弱さの問題ではありません。昇任試験の情報は、自分から人事担当に確認しないと、年齢上限を含めた詳細が見えにくい自治体が多いという、人事制度の詳細が職員に十分共有されていないという問題です。



じゃあ、何をすればいいんにゃ?



まずは「自分の自治体の昇任試験に、年齢や経験年数の上限が何年にあるか」を、人事担当に一度確認しておくことです。受ける・受けないの判断は後でいいんです。先延ばしにできる期限を、まず数字で把握しておく。それだけで、迷いの質が変わります。
30代後半から40代前半は、自治体によっては受験機会が限られてくるケースもあります。「受けるかどうか」の前に、「いつまでなら選べるのか」を先に確定させておくこと。これが、後悔しない逆算の第一歩です。
昇任しても、しなくても。号俸とは別軸で収入を設計する
ここまで号俸・昇任の話をしてきましたが、最後にお伝えしたいのはこれです。昇任するかどうかは、号俸という「会社(自治体)が決めるレール」の話です。一方で、そのレールの上でどう資産を組み立てるかは、自分で決められる別の軸です。
実際、給与や賞与が上がっても、控除の増加で手取りの伸びを実感しづらいという声は多く聞きます。この仕組みについては、以前の記事でも詳しく触れています。


また、人事院勧告による給与の動向そのものについては、こちらでまとめています。


昇任を選ぶ・選ばないにかかわらず、号俸の伸びだけに収入の設計を委ねてしまうのはリスクです。今の号俸のまま何年働くとどうなるのか、昇任すればどう変わるのか。この2つの未来を数字で比べておくことが、後悔しない選択の土台になります。



結局、昇任しても・しなくても、何から始めればいいんにゃ?



まずは今の号俸からの伸び方を知っておくこと。それが収入設計の出発点になります。公務員の給与体系を理解したFPに、今の号俸・等級から確認してもらいましょう。相談料は無料です。






