
令和8年8月23日、総務省は自治体職員向けに「カスタマーハラスメント(カスハラ)」対応マニュアルの作成手引をまとめました。10月1日から民間事業主のカスハラ対策が義務化され、国家公務員にも新たな人事院規則が施行される中、地方自治体でも職員を守るための体制整備が進められています。今回は、この手引きのポイントと、地方公務員として押さえておきたい今後の動きを整理します。
- 総務省が自治体向けにカスハラ対応マニュアルの「作成手引」を公表
- 長時間居座る利用者への対応は「こう着から15~30分」が一つの目安に
- 10月1日から民間事業主のカスハラ対策が法律で義務化。地方自治体でも総務省の手引を踏まえた体制整備が進む
- 国家公務員は人事院規則10-17に基づき、同じ10月1日からカスハラ防止の措置が実施
- 自治体職員の35.0%が過去3年でカスハラを受けた経験があるとの調査結果も
① 総務省が示した「作成手引」の中身
総務省がまとめたのは、自治体職員が住民等から過度な要求を受けるカスタマーハラスメントに対応するための、マニュアルそのものではなく「マニュアルを作るための手引き」です。10月からカスハラ対策が法律で義務付けられるのを前に、自治体でも職員を守る体制を整えられるよう支援するのが狙いとされています。
手引では、窓口や電話で長時間にわたって職員を拘束する言動を、カスハラの類型の一つとして例示しています。そのうえで、説明を尽くしても利用者が同じ主張や要求を繰り返す場合、「状況がこう着してから15~30分」を対応時間の目安とすることを示しました。国の指針では「十分な説明を行った上で、なお繰り返しの要求が続く場合には、一定の時間の経過をもって退去を求めたり、電話を切ったりすること」といった考え方が示されていますが、具体的な分数までは定めていません。今回の手引は、それを自治体向けに一歩踏み込んで具体化したものといえそうです。
② 「15~30分」の目安、実務でどう扱うべきか
この目安、現場感覚としては「ようやく」という受け止め方をする職員も多いのではないでしょうか。長時間の居座りやクレーム対応は、担当者個人の忍耐力や経験則に委ねられてきた面が大きく、「いつ、誰の判断で切り上げていいのか分からない」ことがかえって長時間化を招いていたケースも少なくありません。具体的な時間の目安まで示された点が、今回の手引きの特徴です。対応する職員が「この時間まで説明を尽くせば区切ってよい」という後ろ盾を持てるようになる意味は大きいと思います。
一方で手引は、障害特性など、個別の事情によって説明や対応に時間を要するケースもあることに留意するよう求めています。「15~30分」という数字だけで一律・機械的に打ち切るのではなく、個々の事情を踏まえた柔軟な判断が前提になっている点は、マニュアルを作成する側も、現場で運用する側も、押さえておく必要があります。
さゆり財政課長時代、窓口や議会対応で長時間拘束される職員を何人も見てきました。「対応を区切る基準がない」こと自体が、現場の心理的な負担になっていたんですよね。目安が一つ示されるだけで、ずいぶん動きやすくなるはずです。
③ 10月1日、民間・国家公務員・地方公務員でそれぞれ何が変わるか
今回の手引が注目される背景には、2026年10月1日から本格化するカスハラ対策の強化があります。改正労働施策総合推進法では、民間の事業主に対して、カスハラに関する雇用管理上の措置が義務付けられます。一方、地方公務員については、この法律の措置義務が民間と同じ形で直接適用されるわけではなく、地方公共団体ごとに、職員を守るための体制を独自に整備していくことになります。今回、総務省が自治体向けのマニュアル作成手引を示したのも、こうした自治体ごとの体制整備を後押しするためと考えられます。
民間の事業主が講ずべき措置の具体的な内容は、令和8年2月26日付の厚生労働大臣指針(厚生労働省告示第51号)としてすでに公布されており、主なポイントは次のとおりです。自治体が対応方針やマニュアルを整備する際にも、こうした国の指針で示された考え方が参考になると考えられます。
- カスハラに毅然とした態度で対応し、労働者を保護する方針を明確化し、周知・啓発すること
- 相談窓口を設置し、相談に適切に対応できる体制を整えること
- 事実関係の迅速かつ正確な確認、被害者への適正な配慮の措置、再発防止に向けた措置を行うこと
- 特に悪質なケースについて、あらかじめ対処方針を定め、周知・実行すること
- 相談者のプライバシーを保護し、相談したことを理由に不利益な扱いをしないこと
国家公務員については、また別の枠組みが用意されています。各府省の職員を対象に、人事院規則10-17「カスタマー・ハラスメントの防止等」が、令和8年10月1日から施行されます。管理監督者には、カスハラが発生した場合に必要な措置を迅速かつ適切に講じることや、職員からの相談に迅速かつ適切に対処することなどが求められます。整理すると、民間は改正法・厚労省指針、国家公務員は人事院規則、地方公務員は各自治体の方針・マニュアルというように、根拠となる枠組みは三者三様ですが、10月という時期が一つの節目になっている点は共通しています。
| 対象 | 主な制度上の枠組み | 適用・実施の動き |
|---|---|---|
| 民間事業主 | 改正労働施策総合推進法・厚労省指針 | 2026年10月1日から義務化 |
| 地方公務員 | 自治体ごとの方針・規程・マニュアル等(今回の作成手引はこの整備を支援するもの) | 総務省の手引も踏まえ各自治体で整備 |
| 国家公務員 | 人事院規則10-17 | 2026年10月1日から施行 |
④ 自治体職員の35.0%が「カスハラを受けた経験あり」
総務省が2024年11~12月に実施した調査(全国388の都道府県・市区町村から無作為抽出した一般行政部門の職員約2万人を対象、有効回答約1万1,500件)では、過去3年間にカスタマーハラスメントを受けた経験(受けたと感じた経験を含む)があると回答した職員が35.0%にのぼりました。これはパワーハラスメント(15.7%)やセクシュアルハラスメント(3.9%)と比べても高い水準で、自治体職員にとってカスハラが身近な課題であることを裏付けています。あわせて、自治体によってカスハラ対策の取組状況には差があることも明らかになっており、特に小規模な市区町村では、都道府県や指定都市に比べて体制整備や職員への周知に課題が残るケースもあるようです。今回の作成手引は、こうした自治体の取組を後押しする狙いがあるとみられます。



3人に1人以上がカスハラ経験ありって、思ったより多いにゃ…。10月まであと1ヶ月ちょっとしかないけど、体制づくりは間に合うのかにゃ?
正直なところ、民間事業主の措置義務化や国家公務員向け制度の施行が10月1日に迫る中での手引き公表は、自治体にとっても体制整備を進める上でかなりタイトなタイミングです。今後、多くの自治体で、この手引きを参考にしながら、相談体制や対応方針、マニュアルの整備が進められていくことになりそうです。人事担当・総務担当の部署にとっては、当面、対応の検討が続きそうです。
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地方公務員として、今のうちに確認しておきたいこと
現場の職員として今できることは、まず自分の所属する自治体の相談窓口や対応方針が、現時点でどこまで整備されているかを確認しておくことです。10月の施行後に慌てて探すより、今のうちに総務課や人事課に確認しておいたほうが、いざというときに動きやすくなります。すでに悩まされている案件がある場合は、施行を待たずに早めに相談してしまうのも一つの手です。
また、「15~30分」という対応時間の目安は、あくまで総務省の手引が示した一例であり、実際にどんな運用にするかは自治体ごとのマニュアル次第です。自分の自治体の運用がどうなるか、今後の総務課からの通知にも注目しておきたいところです。
・総務省が自治体向けカスハラ対応マニュアルの「作成手引」を公表
・対応時間の目安を「こう着から15~30分」と提示
・10月1日から、民間事業主は改正労働施策総合推進法・厚労省指針に基づくカスハラ対策が義務化
・国家公務員も人事院規則10-17により、同日からカスハラ防止等の措置が実施
・地方公務員には法律が直接適用されるわけではないが、総務省の作成手引も踏まえ、各自治体で職員を守るための方針・マニュアル整備が進む見通し
・自治体職員の35.0%が過去3年でカスハラ経験ありと回答、対策の必要性は現場でも実感されている
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出典:時事通信「総務省、自治体のカスハラ対策支援 対応時間の目安も明示」(2026/8/23)/厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)/人事院規則10-17「カスタマー・ハラスメントの防止等」/総務省・労働政策研究・研修機構「自治体職員アンケート調査」(2024年11~12月実施)







