
📋 この記事でわかること
- 「ビッグステイ」とは何か、そして地方公務員に深刻な関係がある理由
- 公務員スキルが民間でどう評価されるか、具体的な棚卸し方法
- 2026年が公務員の市場価値を確認しておきたい理由
- 「転職するかどうか」を決める前に、まずやるべき一つのアクション
3月の最終金曜日。
その日の夕方、庁舎の玄関前に人だかりができていた。
財政課の同期、A氏が退職するのだ。20年近く一緒に予算査定を戦ってきた相棒が、民間のコンサル会社へ転職する。餞別の花束を受け取りながら、彼は少し照れくさそうに笑っていた。
「さゆりさんも、いつか来てよ。外の世界、思ってたより広いから」
そう言い残して、彼はタクシーに乗り込んだ。私は手を振りながら、なぜか足が動かなかった。
うらやましい、という気持ちより先に来たのは、「自分には同じことができるだろうか」という問いだった。同じスキル、同じキャリア、似たような経験年数。なのになぜ、私はここに立ち尽くしているのか。
答えは単純だった。彼は「外でやっていける」という確信を持っていた。私はそれを持っていなかった。
違いは能力ではない。「自分の市場価値を知っているかどうか」だけだった。
この記事を読んでいるあなたも、似たような感覚を持ったことがあるのではないだろうか。転職を考えたことがあるけれど、「公務員を辞めてやっていけるのか」という不安が先立って、何もできずにいる。そういう人に、今日は私の経験を全部話したいと思う。
1. ビッグステイとは何か?公務員にも無関係ではない理由
「転職しない」を選ぶ人が増えている新現象
「ビッグステイ(Big Stay)」という言葉をご存じだろうか。
転職市場の不透明感や先行きへの不安から、転職意向はあっても実際には動かず現在の職場にとどまる傾向を指す言葉だ。2021〜2022年にアメリカで起きた「大離職時代(グレートレジグネーション)」の反動として、2023年頃から注目されるようになった概念である。米国で広まった概念だが、日本でも「転職を考えながら行動には移していない層」の存在が指摘されている。
でも、ここで重要な問いがある。
それとも、「他に行けそうもない」という消極的な理由からですか?
公務員の「ビッグステイ」は構造的に作られている
地方公務員のビッグステイは、民間のそれよりずっと根深い。なぜなら、公務員組織には「居続けることを当然とする構造」が埋め込まれているからだ。
終身雇用・年功序列・退職金制度・公務員共済制度。これらはすべて「長く居続けるほど得をする」設計になっている。
さらに厄介なのが、「スキルの棚卸しをする機会がない」という問題だ。民間企業では、転職市場の相場観が常識として共有されている。でも公務員は、自分のスキルが「外でいくらの値段がつくか」を知る機会がほとんどない。
さゆり私が財政課長だったころ、部下の若手職員に「自分のスキルを言語化してみて」と聞いたことがある。彼は少し考えてから、「……予算編成?」と答えた。



そのスキルが民間でどう活かせるか、彼には想像もできなかった。それは彼のせいではない。そういう情報が入ってくる環境に、地方公務員は置かれていないのだ。
「ビッグステイ」が危険なのは、選択肢を奪うから
ビッグステイの最大のリスクは、「気づいたときには出られなくなっている」ことだ。
転職市場には、厳然たる「年齢の壁」がある。30代前半と後半では求人の幅が違う。40代に入ると、さらにポジションは絞られる。
「いつでも出られる」と思っていたのに、気づけば50代。退職金計算をしながら「あのとき動いておけば」と後悔する先輩を、私は何人も見てきた。
居続けることを「選んだ」のではなく、「選ばされた」状態。それが、公務員における最も危険なビッグステイの形だ。
2. 2026年は公務員が市場価値を確認しておきたいタイミング
採用市場が変わりつつある2026年の現実
2026年の転職市場は、これまでとは質的に異なる変化が起きている。
DX推進・デジタル人材不足・官民連携事業の拡大。これらを背景に、官民連携や自治体DXの広がりにより、行政経験者が活躍できる場面は以前より増えている。
GovTech(ガバメントテクノロジー)領域のスタートアップ、コンサルティングファーム、自治体DXを支援するSIer……これらの企業は、行政の内側を知っている人材を必要としている。
キャリア相談の中でも、公務員からコンサルへ転職し年収が大きく上がった事例を耳にすることがある。ただし共通しているのは「動いた時期」の話で、「もう2年遅かったら、あのオファーはなかったと思う」という声は一度や二度ではない。
年齢と「市場価値の賞味期限」の現実
転職市場において、年齢は無視できない変数だ。
一般的に転職市場では、年齢が上がるにつれて応募可能な求人の幅が狭くなる傾向がある。40代以降は専門性やマネジメント経験を求める求人が増え、未経験分野へのチャレンジは難しくなっていく。
地方公務員の場合、もう一つの問題がある。「年齢に対してポストが低すぎる」ケースだ。民間企業では30代後半〜40代で管理職に就く人も少なくない一方、公務員では係長級にとどまるケースも珍しくない。民間の採用担当者から見ると「なぜこの年齢でこのポジションなのか」という疑問につながりかねない。
だからこそ、「管理職経験」や「予算権限の経験」がある30代〜40代前半が、一つの重要な分岐点を迎えている。あなたが今その年齢帯にいるなら、今がまさに「窓口が開いている時間」だ。


「考えてから動く」が最も危険な思考パターン
「もう少し考えてから」「子どもが落ち着いたら」「定年まで5年切ってから」
このような先送りを、私はキャリア相談の場で何度も聞いてきた。でも残念ながら、「考えてから動く」というのは、転職においてほぼ機能しない戦略だ。
なぜか。転職の「情報収集」と「実際の行動」の間には、想像以上のギャップがある。情報収集を始めてから「本当に動ける」状態になるまで、早くても数ヶ月かかる。
つまり、「動こうと思ったとき」はすでに遅い。動けるかどうかを確認するアクションを、今すぐ起こすべきなのだ。
⚠️ 今の市場価値を知らずに働き続けるリスク
- 自分の適正年収がわからない 現在の給与が市場水準と比べて高いのか低いのか判断できず、将来の生活設計が立てにくい
- 転職可能性がわからない 「いざとなれば出られる」と思っていても、実際にどんな選択肢があるかを知らなければ、それは根拠のない安心感にすぎない
- 異動や組織改編に振り回される 自分のキャリアの軸を持っていないと、組織の都合による異動を受け身で受け入れるしかなくなる
これらのリスクを解消する最初のステップは、難しいことではない。今の市場で自分がどう評価されるかを、一度確認してみるだけでいい。
3. 公務員スキルの市場価値を棚卸しする方法|あなたのスキルは意外に高く売れる
公務員が気づいていない「隠れた市場価値」4つ



元財政課長として断言する。地方公務員のスキルは、本人が思っているよりずっと高い。
ただし、それを「言語化」していないと、採用担当者には伝わらない。以下、特に民間で評価されやすい公務員スキルを4つ挙げる。
億単位の予算を管理し、費用対効果を数値で説明してきた経験。これはコンサルや事業会社の経営企画部門が真っ先に欲しがるスキルだ。「予算査定」という言葉を「財務分析・コスト最適化」に置き換えるだけで、民間の文脈に翻訳できる。
住民、議会、国、他自治体、地元企業……公務員は常に多様な利害関係者と折衝してきた。これは「調整力」「交渉力」として民間でも高く評価されることが多いスキルだ。
規制産業(金融・医療・エネルギー等)やコンプライアンス部門では、法令を読み解き適切に運用できる人材が恒常的に不足している。自治体法規の経験は、意外な場所で高く評価される。
縦割り組織の中で、複数部署を動かしながら施策を実現した経験。これはPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)やコンサルタントのコア能力だ。
スキルを「民間語」に翻訳する3ステップ
スキルの棚卸しで多くの公務員が躓くのが、「言語の壁」だ。行政用語は、そのままでは民間の採用担当者に刺さらない。
ステップ1:担当業務を「動詞+成果+数字」で書き直す
例:「予算編成を担当した」
→「総額○億円の部門予算を策定し、前年比○%のコスト削減を実現した」
ステップ2:業務の「難易度と影響範囲」を明示する
どれだけ多くの人・金・組織に影響したか。民間の採用担当者は「スケール感」を重視する。「市全体に影響する施策を○名の調整チームをまとめながら推進した」という記述は、非常に強い訴求力を持つ。
ステップ3:「なぜその判断をしたか」を言語化する
公務員は判断の根拠を法令・前例に頼りがちだが、民間では「なぜその意思決定をしたか」というロジックが問われる。自分がどんな問題認識のもとで何を選択したか、その思考過程を言語化する練習をしておこう。
市場価値を「数字で確認する」最も手軽な方法
スキルを棚卸しした後、次にすべきは「それが市場でどう評価されているか」を実際に確かめることだ。


最も手軽な方法は、求人プラットフォームで「類似スキルを持つ人材の求人票」を見ることだ。たとえば「財務分析・経営企画・40代歓迎」で検索してみると、想定年収や求めるスキルセットが具体的にわかる。「あ、自分の経験はここに当てはまる」という発見が、必ずある。
逆に「全然当てはまらない」という発見も重要だ。それは「今から準備すべきスキル」が何かを教えてくれる。
4. 私が財政課長を辞めて気づいたこと|「いつでも出られる自分」でいることの意味
異動辞令が「転機」になった日の話
私が本格的にキャリアを考えるようになったのは、ある年の3月末だった。
その年の異動で、私は長年携わってきた財政部門から、全く畑違いの観光振興課に異動になった。組織の都合で、だ。
「なぜ私が」という気持ちより、正直「自分には何も選択肢がないのだな」という無力感の方が大きかった。組織のコマとして動かされている感覚。その瞬間、はじめて「外の世界」を真剣に考えた。
だがそこで気づいたのは、「外を知らない自分には、本当の意味で選択肢がない」ということだった。
転職市場を知らない。自分のスキルが外でいくらか知らない。求人の実態も知らない。情報ゼロの状態で「辞めるか、残るか」を判断しようとしていた。これは、地図なしで山に登ろうとするようなものだ。
「残る」と決めるためにも、一度「外を見る」必要がある
私は結局、すぐに転職はしなかった。
でも、情報収集をしたことで、考え方が変わった。自分のスキルが外でも通用することがわかった。年収の相場感もわかった。どんな企業が行政経験者を求めているかもわかった。
そうすると、不思議なことが起きた。「組織に残る選択」が、惰性ではなく「能動的な決断」になった。
「他に行けないから残る」のではなく、「今は残る方が、自分のキャリアにとって合理的だ」と判断できた。それだけで、日々の仕事への向き合い方がガラっと変わった。
やがて私は、その経験を活かして「地方公務員の未来設計ラボ」を立ち上げ、今の仕事に至っている。
「出る準備をすること」が、最高の保険になる
私がキャリア相談を通じて見てきた中で、最も後悔している人のパターンが一つある。
「転職しようと思っていたが、何もしないまま50代になってしまった人」だ。
彼らが口を揃えて言うのは、「情報収集だけでもしておけばよかった」という言葉だ。転職するかどうかは関係ない。外の景色を知っておくだけで、自分のキャリアの判断軸がまったく変わる。
「いつでも出られる状態にしておくこと」は、最高の精神的保険だ。そして、その保険は今すぐかけ始めることができる。
5. まず無料で市場価値を確かめてみよう|今すぐできる最初のアクション
「情報収集」は立派な行動である
「転職活動」と聞くと、「退職を決意して職場に迷惑をかけること」のような罪悪感を覚える公務員は多い。でも、それは誤解だ。
求人情報を見ることは、情報収集だ。自分のスキルと市場を照らし合わせることは、キャリア設計だ。いずれも、今の職場への忠誠心とはまったく関係がない。
医者が定期健診を受けるように、キャリアにも定期的な「現在地確認」が必要だ。それが「市場価値の診断」であり、最も手軽にできるのが転職プラットフォームへの登録と求人閲覧だ。
リクナビNEXTを選ぶ理由
転職プラットフォームはいくつもあるが、私が地方公務員に特にリクナビNEXTをすすめる理由は三つある。
① 求人数が多く、地方でも案件がある
大都市圏の求人だけでなく、地方企業の求人も豊富に揃っている。地方公務員が「地元で転職を考える」場合にも十分な選択肢がある。
② スカウト機能で自分への需要を把握できる
プロフィールを登録しておくだけで、企業やエージェントからスカウトが届く。スカウトの内容から、自分の経歴にどのような需要があるかの参考になる。一斉送信のものも混じるが、どんな業界・職種から声がかかるかを見るだけでも、市場の解像度が上がる。
③ 登録・利用が完全無料
会員登録から求人閲覧、スカウト受信まで、求職者側は一切費用がかからない。「とりあえず見てみる」のに、リスクがゼロだ。
登録から「市場価値の確認」までにかかる時間
実際に試してみると、こんなステップになる。
- 登録(約5分):名前・メールアドレス・現職情報を入力するだけ
- プロフィール入力(約20〜30分):職歴・スキル・希望条件を入力。ここで「自分の経験を言語化する」作業が発生する。この作業自体がキャリアの棚卸しになる
- 求人検索(随時):気になるキーワードで求人を検索。「経営企画」「行政経験歓迎」「財務」などで検索すると、自分のスキルとの接点が見えてくる
- スカウト受信(登録後数日〜数週間):企業やエージェントからのアプローチが届き始める。内容を見るだけでも「外からの評価」の参考になる
この一連のプロセスを経るだけで、「自分は外でどう見られているか」がかなりリアルに把握できる。ここで誤解しないでほしいのは、市場価値を確認することと転職することは別だという点だ。実際に私の相談者の中にも、市場価値を確認した結果「今の自治体に残る」と判断した人は少なくない。転職するかどうかは、そのあとで判断すればいい。
まとめ|組織に依存しない「個としての公務員」へ
ビッグステイ時代の最大のリスクは、「居続けることを選んだ」ふりをして、実は「選べない自分」になっていることだ。
地方公務員のスキルは、本人が思うより高い。予算管理、ステークホルダー調整、法令運用、プロジェクト推進。これらは多くの分野で需要が見込まれる。
ただ、その価値は「自分で言語化し、市場と照合する」という作業をしない限り、永遠に見えないままだ。





私は今、元財政課長として多くの公務員のキャリア相談に乗っている。そこで確信していることがある。



「いつでも出られる自分」でいることが、最も豊かな公務員人生をつくる。



人のセリフ取るな〜!
転職するかどうかは関係ない。「この組織にいるのは、ここが今の自分にとってベストだから」という能動的な選択ができている人は、仕事へのモチベーションも、人間関係の質も、圧倒的に高い。
逆に「他に行けないから残っている」という状態は、じわじわとキャリアの主体性を奪っていく。
組織の歯車ではなく、「個として選択できるプロフェッショナル」であること。それが、ビッグステイ時代を生き抜く地方公務員の新しい姿だと私は思う。
あの3月の夕方、タクシーに乗り込んだ同期の背中を見送りながら感じた問いに、今なら答えられる。
答えを出す前に、まず外を見てみてほしい。
それだけで、世界が変わる。








